東京藝術大学 大学院 音楽音響創造

要旨

飯田 能理子
マルチメディア作品における音楽
一実験工房と草月アートセンターを中心に一

本論は、戦後の日本において、世界的にみても早い段階から総合的な芸術の融合を目指した実験工房(1951-1957)と、その意志を引き継ぐようにして発足した草月アートセンター(1959ー1971)を中心としたマルチメディア作品の音楽について述べたものである。

今までの研究では、実験工房や草月アートセンターにみられる活動を1970年に行われた万国博覧会で帰結した前衛音楽という括りで捉え、現代とは断絶されたものであるかのように論じられてきた。確かに戦後のテクノロジーの発展と思想の拡張の中で、多彩な表現がうまれたが、実験工房と草月アートセンターが目指したマルチメディア作品の音楽の意義を、前衛的な視点ではなく普遍的で創作によった観点から再検討するものである。

第1章では、実験工房の成立とバレエ、オートスライド、舞台作品における音楽ついて、その制作過程や趣旨を検証し草月アートセンターへ受け継がれる活動の源流を探る。第2章では草月アートセンターの初期の音楽活動である作曲家集団について、主に武満徹の《水の曲》の作曲過程を詳しく検証し、実験工房が目指したマルチメディア作品の到達点であったことを述べ、先端的なテクノロジーを積極的に受容し、ぶれない視座をもった作品制作をおこなう環境を整えることが、いつの時代でも必要であるとの結論で、結びとする。


IIDA Noriko
Music in multimedia work : Especially with the Experimental Workshop and the Sogetsu Art Center

This paper treats of the music in the multimedia work with a focus on the activity of the Experimental Workshop (1951-1957) and the Sogetsu Art Center (1959-1971),the group of Artists from various genres in Postwar Japan ,that aimed a comprehensive fusion of various genres of art from an early stage in the world.

In previous studies, the activity in the Experimental workshop and the Sogetsu Art Center has been captured in a quotation of avant-garde music, and reasoned as if that has been the outcome of World Expo held in 1970, Japan and disconnected from the modern. But The purpose of this paper is that, the significance of music in multimedia work produced by the Experimental Workshop and the Sogetsu Art Center is intended to review the terms of the creation of universal perspective rather than avant-garde one.