東京藝術大学 大学院 音楽音響創造

要旨

金井哲郎
奏楽堂の可変天井による残響の変化と録音への影響について

東京藝術大学構内に奏楽堂というコンサートホールがある。このホールは様々な音楽ジャンルに対応するために大規模な天井可変機構が備わっている。本研究では天井毎の残響の違いと、録音位置で のマイクでどの様な響きの変化が起こっているかを調査した。

以下の7つの天井高・舞台セッティングに関してインパルス応答収録実験を行った。

1.フル天井(最も天井を高くした状態で、パイプオルガンのコンサート等に用いられるもの)
2a. オーケストラで用いられるもの(ひな段なし)
2b.オーケストラで用いられるもの(ひな段あり)
3a. ピアノで用いられるもの
3b.声楽で用いられるもの
4.3bから舞台上天井を変更したもの
5.邦楽で用いられるもの

この実験は、単にホールの残響を測定することだけが目的ではなく、奏楽堂でのコンサート録音に 生かせるデータを得る事が目的である。そのため、インパルス応答の収録には、ダミーヘッドや測定 用マイクだけでなく、実際の録音で用いるマイクやそのセッティングも用い、また、本研究室で研究 中である高さスピーカーでの再生を目的としたマイクでも測定を行った。なお、フロント側のマイク はそれぞれの天井高/音源位置に対して、奏楽堂での録音でよく使用するマイク位置と、その前後1mずつの3箇所に設置した。

これらのデータを用いて試聴実験を行った。7のうち4つの天井パターンに絞り、サラウンド収録で用いるセッティングで収録したインパルス応答のデータを使用し、無響室で録音したテンポや音符 の細かさが異なる3つの音源に畳み込んでサラウンド音源を作成した。

4種類の天井パターンに対して、それぞれ3種類のマイク位置のデータを用いて畳み込んだ12種類 の音源を、被験者が自由に切り替えて聞けるようにし、それぞれの評価をスライダーを用いて序列化 した。評価語として「残響の明るさ」「包まれ感」「心地よさ」の3つの形容詞を用い、3 種類の音源(トランペット、バイオリン、フルート)それぞれについて3つの形容詞の評価を行った。

これを集計したデータから平均値と95%信頼区間を計算・分析した。その結果以下の事が言える。

・ 1のフル天井ではマイクを基準位置より離すと「心地よさ」が減る
・邦楽仕様の天井ではフロント側のマイクを離すことで「包まれ感」が増す
・ 邦楽仕様の天井では
・ 楽器の別に関わらず近いマイクで「明るさ」「心地よさ」が低くなる
・ オーケストラ仕様の天井ではトランペットとオーボエの音源でマイクを遠くした時に「包まれ 感」が増す

本研究で用いたインパルス応答は非常に大掛かりな実験をして得られたデータであり、今回の論文 に記述した以外にも様々な視点から分析・実験を行うことで新たな発見があると思われる。

なお、収録実験で得られた全てのインパルス応答の音声ファイルや、試聴実験に用いた無響室の音 源及び、集計結果、平均値と95%信頼区間を示した表等を付録の DVD・R に収録した。これらを用いれば様々な音源にインパルス応答を畳み込み、天井ごとの残響の違いをその音源でシミュレーション する事ができる。また、客席で聞こえる音をヘッドホンでシミュレーションする事なども可能であり、 様々な活用方法があると考えられる。


KANAI Tetsuro
On changes of reverberation due to the adjustable ceiling panels in Sogakudo concert hall and the effect to music recordings

A concert hall Sogakudo has variable ceiling panels. Usually the ceiling panels are adjusted according to music genre. In this research, acoustical changes in Sogakudo due to the adjustable ceiling panels was investigated, and how those changes affect the recordings made in the venue.

Impulse responses were recorded at seven settings of ceiling panels. Each settings were most commonly used for:

1. a concert of pipe organ,
2a. an orchestra without steps,
2b. an orchestra with steps,
3a. a piano solo concert,
3b. vocals,
4. a variation of 3b, which is usually not used, and
5. a Japanese traditional music concert.

Eighteen microphones were used for this measurement. The microphones configurations such as “Omni-8 front microphone array” and “Omni-square ambient microphone array” were placed with music recordings in mind as well as the ordinary impulse response measurement setups. The impulse response data obtained from these microphones can be used with five-channel surround speakers with sufficient computations. Especially, recordings using the Omni 8 array were made at reference position, lm near, and 1m far from the speaker.

Subjective evaluations of 12 sound stimuli of four ceiling settings and three frontal microphone positions were done. Three anechoically recorded music excerpts were convoluted with the 12 impulse response files resulting in 36 sound stimuli. Sixteen participants rated on a scale of 0 to 100 with vertical sliders on a computer graphical user interface. Three adjectives “Brightness”, “Envelopment” and “Comfortableness” were used for the evaluation.

As the result,

  • Ceiling No.1 with far microphones was rated low in “Comfortableness,”
  • Farther microphones with ceiling No.5 was rated higher in “Envelopment,”
  • Nearer microphones with ceiling No.5 was rated lower in “Brightness” and “Comfortableness,” and
  • Trumpet and oboe played with farther microphones with ceiling No.2 were
    rated higher in “Envelopment.”

All impulse response files are included in appendix DVD-R, The recorded impulse response files are expected to provide valuable information in further investigations.