東京藝術大学 大学院 音楽音響創造

要旨

葛城梢
ゴダール作品における音楽と音響
—ソニマージュを中心に—

本研究は、フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダール(JeanLucGodard,1930~)の作品における音楽と音響の用いられ方、それらと映像との関係について“ソニマージュ”という概念に重点を置き考察したものである。1973年にソニマージュ工房を設立して以来、ゴダールの作品における音の扱いは複雑さを増していく。ソニマージュとは、SON(音)+IMAGE(映像)をつなぎ合わせた造語であり、ゴダールによる「映画」の換言とも言える。ゴダールがソニマージュとして実践するのは、現実の再現ではなく、音と映像による再構築である。映像のモンタージュによって新たな結合、意味をつくり出すのと全く同じように、音もインサウンド/オフサウンド、効果音/台詞/音楽の区別なく自由に分断し、再結合することによって新たな関係性を作り出している。

このような映像と音のモンタージュの傾向は1980年代以降の作品から現在に至るまで頭著に表れている。だが、音と映像の分断と衝突によって関係性をつくりだす、聴くことに意識的なゴダールの姿勢は、「ソニマージュ」が唱えられる以前のごく初期の作品から実践されているのではないか。

本論文では、こうした初期の作品からソニマージュへと繋がる音と映像のモンタージュを分析し、六十年代と八十年代以降のサウンドトラックにどのような違いあるいは共通点があるかを探った。初期の作品から一貫して見られる姿勢はインとオフ、フレーム外といった映画における音のレイヤー構造を逆手にとり、「誰が何を聴いているのか」を常に意識した音の構築である。ゴダールの作品では観客の耳のみならず、登場人物それぞれの耳が意識されており、時にはカクテルパーティー効果を用いて環境音を意図的に組み替え、編集している。またある時には、映像と因果関係のない音が付加され新たな意味を創出し、音によるショットとショットのつなぎが行われる。八十年代以降、特にフランソワ・ミュジーとの制作が始まってからは、既存の音楽を用いることで事前にサウンドのプランが練り上げられており、オリジナルの音楽を依頼していた時期と比べ効果音や音声といった他の音要素と同レベルで扱われ再構築される。これらの複雑な編集は決して恣意的なものではなく、映画全体が音楽的構造によって支えられている。


KATSURAGI Kozue
Music and Sound Design in the works of Jean-Luc Godard
—An examination of “Sonimage”—

This paper is about a French film director, Jean-Luc Godard, and attempts to show how he utilised music and sound in his works. I have focused my research on analyzing the relationship between image and sound, concentrating on the concept of “Sonimage”.

Godard established a production company called “Sonimage” in 1973, and is the word coined by Godard, to mean “Son” (sound) and “Image”(image), or “cinema”. Godard uses montage techniques of images and sounds as Sonimage, not to represent the world as we see and hear, but to reconstruct it. We can see trends like this montage of images and sounds especially in works from 1980s. However, it is my opinion that Godard has had been working with the concept since the beginning of his career.

I have analyzed various works from the 1960s and the 1980s to examine whether there are any differences or similarities between them. I think that Godard has constructed his images and sounds, consciously thinking about who will listen to such and such a sound and what does the viewer listen to. Through such techniques as ‘cocktail-party effects’, Godard has turned layers of sounds in cinema (e.g. ‘in-sounds’, ‘off-sounds, ‘sounds out frame’) into consistently interesting expressions. He also makes constructs new meanings by connecting images and sounds that have no causal relationship. In short, his works are composed like musical structures.