東京藝術大学 大学院 音楽音響創造

要旨

櫻井 美希
松本俊夫の映画における音楽――1960 年代の作品を中心に―

松本俊夫(1932~)は新理研映画入社後に手がけた《銀輪》(1956 年公開)を初作として、2012 年の《万象無常》まで約 80 作品を手がけた映画監督、映像作家である。長い作家としてのキャリアにおいてその作風も非常に多岐に渡っており、記録映画や企業 PR 映画、長編の劇映 画、ビデオアートにとどまらず、インスタレーションや舞台表現など、活動の幅は非常に広い。松本が、映像そのものに対してはもちろんのこと、音に対してもまた意識的な作家であったこと は、武満徹や湯浅譲二、一柳慧など日本の現代音楽を代表する作曲家たちと積極的にコラボレーションしてきた姿勢からうかがうことができるだろう。また、1963 年に刊行された初めての著作『映像の発見――アヴァンギャルドとドキュメンタリー』にて「『音』が映像表現の補助手段でしかなかった時代は、すでに終わっている」という発言を残している。また「映像のもたらす感動が『イメージの深さ』の度合いによってきまる」という発言を踏まえた上で、「『イメージの深さ」の問題について語るとき、どうしてもはずすことのできないものに『音』の問題がある」とあり、60 年代の松本の試みを進める上で、音もまたはずすことのできない要素であったことが読み取れる。本論では松本が「映像固有の表現方法」を突き詰めていた 1960 年代とい う時代を取り上げる。そして「映像固有の表現方法」に対して映画音楽はどのように構築され、それらはどのように機能したのか、作品分析を通して探っていきたい。

具体的な方法は、以下の通りである。まず第1章で松本俊夫についての概略を述べる。第2章では松本の 1960年代における思想や態度、そして多くのコラボレーションを行うことになる湯浅譲二について述べる。第3章では松本の映画における実験に対して音楽がどのように構築され機能しているのかを作品分析を通して明らかにする。第4章では 1960 年代以降に松本の思想 がどのように転換し、音楽はどのように追随したのかを述べ、1960 年代という時代の映画や音 楽に1つの特徴があることを指摘する。最後に、松本の 1960 年代の思想や作品を総括し、常に時代に挑戦する映像作家であったということを結論づける。


SAKURAI Miki
Music in the Film Created by Toshio Matsumoto : With a Focus on 1960s

Toshio Matsumoto(born in 1932) is a film director. He has created about 80 films, from “Ginrin” in1956 to “Banshomujo” in 2012. In his long career as a film director, he had various style. For example, documentary film, promotion film for company, feature film, video art, installation, and performing art. We understand that he also had a concern about the sound as well as a film, because he has collaborated aggressively with the representative of modern music in japan, for example Toru Takemitsu, Joji Yuasa, Toshi Ichiyanagi. He said “The era which the sound is only a assistance to film has been end”, “the emotion depends on the depth of image” , “when we discuss the issue of depth of image, the issue of the sound is not left out.” We understand from these sentence that the sound was also indispensable in his experiment at the 1960s. In this thesis, I take up the 1960s when Matsumoto has investigated into intrinsic expression in film. And I study the function of the music in the film thorough the analysis of his films.

Specific way is as follows. First, I state about Toshio Matsumoto at chapter1. At chapter2, I state his idea and posture in the 1960s and survey of Joji Yuasa. At chapter 3, I declare the function of music in the films thorough analysis of the films. At chapter 4, I state why his idea has changed and haw soundtrack has followed after the 1960s . At last chapter, I summarize his idea and films in the 1960s, I state a conclusion that he is a film director who kept defying the times.