志野 文音
クラシックギターにおける異弦同音と弾弦位置の違いによる音色変化
クラシックギターは、作曲家L.v.ベートヴェンに「ギターは小さなオーケストラである」と言われた程、幅広い音域と多彩な音色を持つ表現豊かな楽器として知られている。クラシックギターの特徴として知られる多彩な音色を生かした演奏をおこなうためには、異弦同音の性質を利用した弦の選択や弾弦位置を変えたりする方法が用いられている。このことから、「クラシックギターにおける異弦同音と弾弦位置の違いによる音色変化」をテーマとし、最終的には、演奏者が理想とするより良い演奏をおこなうために役立つ研究となることを目標とする。
本論文では、クラシックギターの異弦同音と弾弦位置の違いによる音色の印象についての評価をおこなうという目的から、実験と考察をおこない、その結果をもとに、クラシックギター奏者が演奏をおこなうための活用方法を提案した。
実験には、同じ音高となる1弦の開放弦、2弦の5フレット、3弦の9フレットを左指で押さえた3種類の弦を弾いたE4の高さの音を、それぞれの弦に対して、12フレットの真上の位置からブリッジ方向に65mm、125mm、1850m、245mm、295mmの5種類の位置で弾いた計15種類の音刺激を用い、一対比較法と評定尺度法による試聴実験をおこなった。その後、個人差尺度構成法(INDSCAL)と、INDSCALによる類似度に関する心理評価で得られた二つの次元において尺度へのあてはめをおこなうための分析をおこなった。これにより、クラシックギターの異弦同音と弾弦位置の違いによる15種類の音色の類似度に基づく心理的距離を表す二次元上の図表と、12対の評価語による音色の印象評価との関係性についての分析結果を得ることができた。更に、クラシックギターの音色について音響特徴量を算出し、INDSCALによって得られた各次元との相関係数を求めた。
INDSCALによる分析においては、各弦や弾弦位置ごとに音色の印象に違いがあり、弾弦位置に関しては、サウンドホールよりもブリッジ寄りに比べて、指板寄りの位置で弾く方が音色の変化を感じにくいことが分かった。また、INDSCALによって得られた次元1は弾弦位置、次元2は弦の違いを示すような傾向にあるということが考えられた。各次元と音響特徴量との関係性からは、次元1はスペクトル中心と、次元2は1000Hzでハイパスフィルタをかけた音の減衰時間と関連があることが示された。そして、尺度へのあてはめをおこなう分析おいては、次元1は「温かい」、次元2は「透明感のある」という評価語と関係することが分かった。また、音色の印象を表す評価語が「金属性」評価語群と「迫力・美的」評価語群という二つの評価語群にまとめられた。そして「金属性」評価語群は、1弦のブリッジ寄りの位置から3弦の指板寄りの位置へと斜め方向の弦と弾弦位置の移動により印象の度合いを変化させることができるだろうということや、「迫力・美的」評価語群は、ブリッジ寄りから指板寄りまでの弾弦位置の移動により印象の度合いを変化させることができるだろうということが分かった。
これらのことは、実際の演奏の場面において弾く弦や弾弦位置を変えることによってあらゆる音色操作をおこなうためには、どのように弦を選択し、弾弦位置を決定するかを考える際の助けとなるであろうと考えられる。本研究によって、同じ音高での弦と弾弦位置の違いによる音色の印象変化についていくつかの傾向を見いだせたことから、クラシックギター奏者が同じ音高の音色を弾く際にはどのように弾く弦や位置を選択すべきかというような演奏への活用方法を考えることへとつなげることができた。
SHINO Ayane
Change in Timbre of Classical Guitar Depending on the Strings and Plucking Positions
Two experiments and analyses were performed in order to evaluate the change in timbre of classical guitar relating to sounding the same note via different strings and also varying plucking positions. These experiments were performed with a set of stimuli generated by three strings with five different plucking positions used on each.
Paired comparisons and rating scales were used to evaluate the stimuli. Individual Differences Scaling (INDSCAL) and the correlation coefficient between the scaling and the two-dimensional psychological space generated from the evaluation of similarity were used in the analyses. From the results of the analysis, connections between the attribute ratings for each timbre of classical guitar and the two-dimensional stimulus space based on psychological distance were obtained. Also, the correlation coefficients between physical measurements of the stimuli and the two-dimensional stimulus space were calculated.
The first dimension of INDSCAL was shown to be related to the Spectral Centroid and the second dimension was shown to be related to the decay time of the sound under a high-pass filter at 1000Hz. From the results of the rating scale evaluation, a two-dimensional space was generated with the first dimension shown to be related to warmth and the second dimension shown to be related to clarity. Attribute ratings for each timbre were shown to fall into two groups, Metallic and Power & Aesthetic, in terms of similarity.
Thus, since the changes in timbre depending on the string chosen for a given pitch and the plucking position used have been identified, it is possible to use this information in connection with playing the classical guitar. Classical guitar players can use this information to assist in the selection of the string and the plucking position when they need to achieve a specific timbre or change the timber while at the same pitch.