東京藝術大学 大学院 音楽音響創造

要旨

田中教順
スネアドラム音色の変化による心理的印象の変化についての一考察

本論文は、2008年に行われた筆者による「スネアドラムについての音色の印象についての実験と考察」という先行研究を更に進めたものである。この研究は「ドラムセットの音色の印象についての定量的な評価を行う」という目的から、その第一段階として楽器をスネアドラムに限定し、10台のスネアドラムの音色の印象についての実験・考察を行うものであった。本実験においてはチューニングの変化、という新たな構成要素を取り入れ、3台のスネアドラムにそれぞれ3種類のチューニングを施し、合計9つのスネアドラム音色を新たに録音し、その録音された音源を用い一対比較法と評定尺度法による試聴実験をおこない、MDSと回帰分析によって分析を行った。その結果、各スネアドラム音色の心理的距離にもとづく二次元上の図表と、8つの評価語による音色の印象評価との関連についての分析結果を得ることができた。分析結果から、MDSによって得られた二つの次元のうち、次元2はスネアドラムのチューニングによって変化した音程と関係があるのではないか、という考察に至り、胴鳴りの部分を強調する、2kHz以下のスペクトラル・セントロイドを算出し、各刺激の次元2における値との間の相関係数を算出したところ、非常に高い相関があることがわかった。反面、次元1に関して相関の高いパラメータを見つけることは出来なかった。筆者の推測として、各スネアドラムにとって中庸なチューニングを施したときと、それ以外のときで次元1の位置が異なること、そしてその位置は各スネアドラムによって異なることから、次元1は「チューニングと胴の特性との関係によって変化する領域」ではないか、という仮説が立てられた。次元2にチューニングの変化、というパラメータとの相関が認められたことで、筆者の先行研究では明らかにならなかった「聴取者達はスネアドラムのチューニングの相違を何らかの感覚で聴き分けることができる」ことが明らかになり、更にMDSの結果から「異なるスネアドラムがチューニングを近づけても、チューニングの異なる同一のスネアドラムに強い類似性を感じることもある」ということがわかった。


TANAKA Kyojun
An examination into the psychological impression affected by the snare drum’s timbre.

Two experiments and analyses were performed in order to evaluate sounds of snare drums as a preparative study for quantitative evaluation of drum sets. The experiments were performed with a set of stimuli generated by three snare drums that each had their top drumhead tuned with three different tensions. “Method of Paired Comparison” and “Rating Scale Method” were used in the experiments. “Multidimensional Scaling (MDS)” and “Regression Analysis” were used in the analyses. From the results, connections between the attribute ratings for each snare drum’s sound and the two-dimensional stimulus space based on psychological distance were obtained. Also, from the hypothesis that the sounds of snare drums consist of high- and low-frequency parts separated at 2kHz, each of which mainly contain sounds of snare and drum shell respectively. The “Spectral Centroid” for the two parts were calculated, and the correlation coefficient between the physical measure and the two-dimensional stimulus space was calculated. A series of studies revealed that although the first dimension of MDS was not strongly correlated with any of the physical measures computed by the author, the second dimension was shown to be related to a Spectral Centroid below 2kHz that was affected by the drumhead’s tuning.