土倉 律子
音楽練習室における空間印象
—「練習しやすさ」についての考察—
この研究は、演奏者にとって身近な音響空間である「音楽練習室」の響きを検証し、練習環境を向上させることを目的としている。建築音響研究の多くが客席における音場評価を主眼にした調査が主流であったが、近年ではコンサートホールのステージ音響に関する研究が進められ、演奏者のための環境が考えられつつある。しかし、練習室、特に小規模な個人練習室についてはあまり研究が進められていない。演奏者は本番までの膨大な時間を練習室で過ごす。練習室が「練習しやすい」環境であることは演奏者にとって重要であると考えられる。
本論文では、練習環境に関する演奏者の意見を蒐集するとともに、演奏者の考える「練習しやすさ」に着目した音響実験を通して練習環境向上のための基礎的な検討を行い、練習室の空間印象とそれに関連する物理量についての調査を行ったその結果を報告する。
実験1では、後続の実験2,3のための基礎検討として、響きを変化させた12種類の音源と20対の評価語を用いSD法と因子分析により演奏者が空間の響きに対して抱く印象を調査した。因子分析の結果から評価に有用な評価語を8つ抽出した。
実験2では、東京藝術大学上野キャンパスにある8つの練習室にて測定したインパルス応答を使用し、ドライソースを畳み込んだ音源聴取による主観評価実験を行った。因子分析と被験者ごとの主成分分析から、空間印象に支配的な評価語は広さを表すものであることが分かった。また「練習しやすさ」と「演奏しやすさ」が異なった印象として評価された。
実験3では、実験2によって概ねポジティブな評価がなされた室(H511)のインパルス応答を使用し、その残響時間の周波数特性を5パターンに変化させ、リアルタイムコンボリューションによる演奏実験を行った。実験手法はシェッフェの一対比較法を採用し、被験者は金管楽器奏者を対象とした。分散分析の結果から、「基本的な練習」のしやすさには個人の嗜好や練習時の意識による違いがあり、「演奏」のしやすさには金管楽器奏者の間に共通意識があることが明らかになった。また、残響の周波数特性に着目すると、「本番を想定した練習」のしやすさと「演奏」のしやすさには500Hz以上の帯域の残響時間が影響していることが示唆された。
TSUCHIKURA Ritsuko
Musicians’ spatial impressions of Practice Rooms
– A study of “easyness of practice” –
The aim of this research was to investigate the acoustics of music practice rooms in order to improve the musicians’ practice environment.
This study concerns the player’s “easiness of practice” and focuses on the results of an investigation relating the physical qualities and their influence on the impression of the practice room acoustics.
In the first experiment, the musicians’ impressions of the practice room acoustics were examinated by a Semantic Differential test using a total of 12 sound stimuli and 20 pairs of terms. The responses were analyzed using factor analisys, and eight pairs of terms were selected to be used in the next test.
In the second experiment, a subjective evaluation test using a dry source convolved with impulse-responses collected in eight practice rooms in the Ueno Campus of Tokyo University of the Arts was conducted. Differences in the terms “easiness of practice” and “easiness of performance” from the factor analisys results were observed.
In the third experiment, based in a room with positive responses from the second test, five paterns of impulse-responses with different frequency dependent reverberation times were created. A real-time convolution reverberator was used during the performance test. Using analisys of variance, it was observed that that the easiness of “technical practice” depends on the individual’s preference. Also, concerning the “easiness of performance”, it was observed that brass players had similar responses.