東京藝術大学 大学院 音楽音響創造

要旨

余田 有希子
現代作品における邦楽器の用法

明治時代に西洋音楽が導入されて以来、西洋の伝統音楽と、日本の伝統音楽両者をどのように扱っていくかが長年の課題であり、様々な議論が交わされてきた。邦楽界から西洋音楽への歩み寄りをみせたり、洋楽界から伝統音楽へ歩み寄ったりする中で、さまざまな試みがなされ、多くの作品が生み出されてきている。そして洋楽界からのそういった試みによる創作は、1960 年代頃から急速に増え、多くの作曲家が邦楽器を使用した作品の創作に取り組むようになったのである。そして、この時期に誕生した作品に関しては、多くの評論家によって論述されてきた。それらのうち、多くのものが個々の作曲家や作品、または、同時代の動向について論じたものであり、作品や作曲家を超えて時代の流れを追いながら、洋楽界の作曲家がどのように邦楽器と向き合い、どのような作品が生み出されてきたのか、考察していくものは見られなかった。

本論文では、洋楽界という視点に立ちながら、主に、第二次世界大戦後の洋楽界の作曲家がどのように邦楽器と関わり、扱ってきて今に至るのかを、考察することで、今後の新たな邦楽器のための作品制作の一助としたいと考える。

第一章では、洋楽界の作曲家による邦楽器のための試験的な創作活動がなされていたといえる第二次世界大戦以前の取り組みについて、歴史的背景とともに考察を行った。西洋音楽輸入当初から目的とされた「和洋折衷」の音楽に対する取り組みや作品の傾向について論じている。第二章では、洋楽系作曲家が邦楽器への深い理解のもと作曲したといえる、第二次世界大戦以降の取り組みを考察し、その時代における前衛音楽の影響や邦楽界からのアプローチが背景にあることを確認した。そして、邦楽器への理解を深めた洋楽系作曲家が、自己の既得の語法と邦楽器の間で様々な葛藤を繰り返し、邦楽器の扱い方も多彩になっていきながら今に至ることがわかった。第三章では実際に幾つかの作品を取り上げ、その楽譜や作曲者の言葉などから、第二章で述べたことを裏付けていった。ここでは、洋楽系作曲家による新しい邦楽器の用法、さらには邦楽器を扱ったことにより、洋楽器にも新たな用法が生まれていることがわかった。

本論文では、以上の考察により、洋楽系作曲家と邦楽器との関わり、そして作品における使用法の変遷を明らかにした。


YODEN Yukiko
Compositions for Traditional Japanese Musical Instruments in Contemporary Music

This thesis aims to show how Japanese composers trained primarily in Western music have utilized traditional Japanese musical instruments in their works since World War Two.

They have been confronted with various conflicts between traditional Japanese idioms and Western ones, and have made many kinds of attempts to reconcile the differences. Some of them used traditional Japanese instruments by means of Western music idioms. Some did it by means of traditional Japanese music idioms. And others tried to assimilate the Japanese traditional instruments to the idiom of Western music.

In this thesis I examine several contemporary works for traditional Japanese musical instruments and analyze their notation and their composers’ remarks. The result reveals that the struggle of the contemporary composers have helped to create new kinds of playing methods of the instruments and these methods, on the contrary, have encouraged the creation of new techniques for Western musical instruments. These tendencies, I hope, will be helpful in opening new possibilities for future compositions.