音響制作スタジオ
音響制作スタジオは 7.1 サラウンドまで対応したモニター環境を備えたスタジオです。ここではサラウンドによるミックスダウン作業の他に、サラウンド環境での音響心理に関する様々な実験にも活用できるようにするため、試聴室としての国際規格(ITU-R BS1116)にのっとって設計されました。試聴実験をおこなう際、コンソールなどの機器類を自由に動かせるようにするために、なるべくケーブルの引き回しが簡単でかつ DAW(デジタル音声編集機)のオートメーション機能を充実させたコンパクトなデジタルコンソールを採用しました。コンソールだけでなくスピーカーもすべてキャスター付きの台に設置してあり、必要に応じてレイアウトを簡単に変えることができます。また120インチ(16:9)の音響透過型スクリーンによる映像の再生環境も備えており、映像を伴う音楽音響作品の制作にも使用します。
さらに天井にもスピーカーを設置し、高さ方向を含めた新しいサラウンドなど、新しい収音再生方式の研究にも取組んでいます。また3階のスタジオをはじめ、学内の他の施設との連絡回線としてデジタル音声回線、映像回線、LAN 回線(Cat6)を備えており、これらの部屋を結んだ録音の実験や作品制作にも対応できるようにしています。
録音調整室
スタジオAとスタジオBの間に位置する録音調整室には、5.1サラウンドのモニタースピーカーシステムと32チャンネルのアナログミキシングコンソールを導入しました。最近ではコストパフォーマンスの面でデジタルコンソールが主流ですが、マイクロホンから録音機、そしてモニターシステムまでに至る信号の流れといったコンソールの基本を習得するためには、アナログコンソールの方が適していると考えました。またモニター機能については、様々なサラウンドのモニター設定に対応できるよう、デジタル信号処理を用いたシステムを導入しています。その他、録音や編集作業をおこなう DAW(デジタルオーディオワークステーション/アナログ32ch入出力)や、リバーブなど効果機器を導入しました。
スタジオA
新館の3階に位置する床面積約160㎡の大規模な録音スタジオであるスタジオAは、千住キャンパスの中心ともいえる施設で、5.1 サラウンドなどの新しい録音再生手法の研究をおこなっています。
柱や梁の配置やコンクリート壁の厚さなどの建物そのものの仕様から浮き床構造といった音響に関する仕様、さらに空調ダクトの引き回し方法などにも細心の注意を払い、最終的にはスタジオ内の静けさを表わすNC値が空調使用時で15以下という非常に優れた値を実現しました。
また、従来のホールなどの設計で考慮されている残響時間などの値だけではなく、録音を目的とした部屋としてふさわしい条件として以下の3点を満たす事を目標としました。
- 演奏者が演奏しやすい響き
- 録音に適した響き
- スタジオ内で聴いて心地よい響き
本当に良い録音を実現するためには、演奏者が良い演奏をすることが大前提であり、そのためには演奏者が演奏しやすい環境を実現するのが絶対条件と考えました。そこでスタジオの形状や特性を十分検討するとともに、反射音の到来方向や音の密度までを考慮に入れた音響設計をおこないました。そして最終的な音響内装の仕上げの前に、実際に演奏者に演奏してもらって、吸音材の量を加減しながら、音響調整をおこなうという工程を組み、上記の3点を実現しました。
完成後、実際の収録において多く演奏者から好評を得ており、今後も良い録音がこのスタジオから生まれる事を期待しています。
スタジオB
約50㎡の中規模スタジオで、スタジオAと比較するとデッド(響きが少ない)に仕上げてあり、ドラムや小編成のアンサンブルの録音、またドラマなどのセリフ、効果音の収録に用います。壁の一部に取り付けてある吸音パネルは着脱可能で、取り外すと反射面が現れるようになっており、スタジオの響きを調整することができます。
また、録音ブースとしての機能の他に、22.2マルチチャンネル音響 *1 の制作システムを備えており、従来の2チャンネルステレオや5.1チャンネルサラウンドでは表現が難しかった上下方向の音の表現が可能になり、空間の特徴を駆使した作品が制作や研究をおこなっています。
*1: NHK技術研究所が、次世代のテレビ8Kスーパーハイビジョンのために開発した高臨場音響再生システム。水平面に10チャンネル、天井方向に9チャンネル、下方向に3チャンネルの合計22チャンネルに加えて、低音専用の2チャンネル(これを0.2チャンネルと呼ぶ)で構成されています。従来のステレオ(2チャンネルステレオ)が左右の2台のスピーカーで再生されるのに対して、聴き手の周り360度の空間を再現し、より臨場感ある音響を体験できます。
録音調整室機材一覧
コンソール:adt-audio SRC51
モニタースピーカー:Musik Electronic RL901K×5(L,C,R,Ls,Rs)、BASIS 4K×2(LFE)、Genelec 8040(ステレオニアフィールド)
DAW:degidesign Protools HD(192I/O×4)
エフェクタ:YAMAHA SREV1、Lexicon PCM-91、
Urei 1176、TubeTech CL1B、AMEK 9098Comp
音響制作スタジオ機材一覧
コンソール:D-command
モニタースピーカー:Generec 8050×7(L,C,R,Ls,Rs,BL,BR)、7070×2(LFE)
DAW:degidesign Protools HD(192I/O×2)
マイクプリ:API512C、イコライザー:API550B
第7ホール
旧千寿小学校の体育館を改修した第7ホールは、本格的な照明設備や音響設備を備えており、ダンスや演劇など様々なイベントに対応できるスペースとして活用しています。上野校地にある6つの練習ホールに続く芸大の7つめのホールとして、様々な芸術活動の発信の場として期待されています。