パソコンやネットワークが広く普及し始め、音楽制作や聴取に関するデジタル化が進められていった90年代。パソコンと音楽とをつなぐ技術、すなわち音楽ファイルの姿には、技術開発の方向性やその使われ方の点で多様な可能性が開かれていた。本シンポジウムで題材として扱うMOD、そしてMODシーケンサーソフトの総称であるTrackerも、そうした可能性の一つとして数えることができるだろう。だが、現代ではMP3に代表される改変不可な圧縮オーディオデータが結果として主流になり、MOD/Trackerのような古い音楽ファイルの技術は、乗り越えられ、忘れられてしまったもの、として捉えられがちだ。しかし、身の周りにある今日的なデジタル音楽文化に目を向けてみると、MOD/Trackerの脈絡から生じてきた文化を見いだすことは、実はそう難しくない。たとえばチップチューンやネットレーベルなどの音楽文化の中で、MOD/Trackerの技術と文化は拡散しながらも存在し続けているのである。
本シンポジウムでは90年代から続くMOD/Trackerの文化に焦点をあてる。それはどのような技術と文化の関係として考えるべきなのだろうか?今日的な音楽文化の中での意義とはどのようなものだろうか?複数の見地からの発表者を招いて徹底的に議論したい。また、後半ではチップチューン的な領域で活動してきたミュージシャンを招き、ライヴパフォーマンスを行なってもらう。今日的なパソコンと音楽との結びつきをライヴとして鑑賞することで、議論の内容をさらに深く体感してもらいたい。
概要
日時: 平成27年4月19日(日) 13:00-19:00
場所: 東京藝術大学 千住キャンパス 3F スタジオA
東京都足立区千住1-25-1
入場無料 (座席数に限りがありますので立ち見になる場合があります。)
〈第一部:トークセッション〉 13:00-16:30
日高良祐 (東京芸術大学大学院)
河野崇 (SID Media Lab)
谷口文和 (京都精華大学)
田中治久 (hally/VORC)
ディスカッション
登壇者 + 毛利嘉孝(東京芸術大学)
〈第二部:ライヴパフォーマンス〉 17:00-19:00
taropeter
BUBBLE-B (KARATECHNO)
Omodaka
出演者プロフィール
〈第一部:トークセッション〉
河野崇 (SID Media Lab)
音楽批評。
欧米のホームコンピュータCommodore 64に搭載されたサウンドチップ「SID」を用いて制作された音楽のアーカイヴの編集行為をベースに、“チップ”ミュージックを取り巻く技術体系と言説の渉猟を通して歴史を思考する。
谷口文和 (京都精華大学)
東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程単位取得退学。録音技術を駆使して生み出されてきた音楽を、マンガや映画などと並ぶ「メディア表現」の一種と位置付け、表現の形式や産業構造、受容のあり方といった側面から研究している。著書に『音楽未来形――デジタル時代の音楽文化のゆくえ』(増田聡との共著、洋泉社、2005年)、『メディア技術史――デジタル社会の系譜と行方』(分担執筆、飯田豊編著、北樹出版、2013年)など。
田中治久 (hally/VORC)
幼少を過ごした80年代初頭からゲーム音楽に親しみ、その「サウンドチップの奏でる音楽」としての特質を一貫して研究し続けている。90年代には日本初のネットレーベル「カミシモレコーズ」を主宰し、FM音源での楽曲制作やライブ活動を精力的に行っていた。2001年にライター活動を開始。個人サイト「VORC」をオープンし、チップチューンという言葉と概念を日本にもたらすとともに、ゲーム音楽のルーツ研究にも先鞭を付ける。2004年頃からゲーム音楽だけでなく、ゲームそのもののルーツ研究にも着手。ブログ「classic 8-bit/16-bit topics」で、アタリショック研究や、近代ゲーム発展史といった未踏の領域における数々の先駆的な発表を行う。2006年~2009年にかけて現在世界唯一のゲーム音楽専門配信サイト「EGG MUSIC」をプロデュースし、6000曲以上のレア音源配信を実現。以降ゲーム音楽のリミックスやサウンドトラック制作にも数多く携わっている。
https://sites.google.com/site/hallyvorc/home
〈第二部:ライヴパフォーマンス〉
taropeter
「二娘一(乃木坂46)」「Ryuichi Sakamoto Tribute」「NHK プロフェッショナル 仕事の流儀 DVD」「Glued On Thin Memories」をはじめ、1990年代後半より国内外を問わず、様々な媒体で楽曲を発表。2011年にはSonarSound Tokyo出演他。東京藝術大学大学院博士課程在。
BUBBLE-B (KARATECHNO)
1995年よりオリジナルトラック制作を開始、1996年よりMODトラッカー「FastTracker2」を導入し、ハードコアテクノユニット「KARATECHNO」の活動を開始する。インターネットの音楽シーンの黎明期において、MODトラッカー同士やその他DTM系での交流が生まれ、そこからリアルにクラブイベントを開催するようになる。そこに出演していたサンプリングを主軸としたライブアクト達により、ナードコアというムーブメントを作り出す。2000年からはより広い音楽性を目指し、BUBBLE-Bというソロ名義にてDJとトラック制作の活動を開始し、映像制作を含めた活動を行う。活動は音楽だけにはとどまらず、累計250回を超えるネットラジオの制作と配信や、全国のチェーン店の1号店を巡ることをまとめた著書「本店巡礼」(大和書房)を上梓するなど、マルチな活動を続けている。
Omodaka
Omodaka は「テクノ民謡とモーショングラフィックスの融合実験企画」として始動。液晶ディスプレイに映し出された仮想シンガーと共にGBC、PSP、DS liteやタッチパネル式シンセサイザー等のデバイスを使い、巫女装束でくりひろげるパフォーマンスが特徴です。
注意
※本イベントはJSPS特別研究員奨励費の助成を受けたものです。