「録音物における残響時間の違いを表す評価後について—テナーバストロンボーンを題材とした実験とその考察—」/ 金澤桃

論文

本論文は、録音された楽器演奏音の音色を表現する言葉を通じて、演奏者と録音エンジニアの間での録音に対する感覚の差異を比較することを目的とした研究の一環として、テナーバストロンボーンを題材として取り上げ、残響時間の増減に対して行なった音色評価実験とその結果の報告、及び考察を行なったものである。

実験はトロンボーン演奏を専門にする人(奏者グループ)と録音・音響を専門にする人(音響グループ)を対象とした。新たに録音した単音の音源にそれぞれ異なる長さの残響を付加して加工した4種類の音を用いて、まず音色評価に使われる言葉を被験者から抽出する作業をレパートリーグリッド法を参考にして行なった。次に、得られた語群の中から選定した7組の評価語対を使用し、評定尺度法による音の評価実験を行なった。

結果の分析と考察から、残響時間の変化に応じて認識される音色及びそれを表す言葉について、7組の評価尺度のうち、音響グループのみが「乾いている/湿っている」「やわらかい/かたい」を、奏者グループのみが「明るい/暗い」を残響時間から判断していることが傾向として表れた。また、両グループが残響時間が長いほど「ぼんやりしている」、短いほど「はっきりしている」と判断したが、音源の演奏者がもつ特徴を熟知している奏者グループの被験者の方が、全体的に「はっきりしている」に偏った評価をした。響きや空間の広さ感に関する評価尺度においては、2つのグループが身を置く学習・研究環境が、それらの認識に影響を与えていることが平均値の比較により示唆された。

第0章で研究動機を説明した後、第1章では前提となる情報及び先行研究について触れる。第2章から第4章にかけて、上記の実験の準備から実験の内容、その結果の報告を行なう。第5章では実験結果を基に考察を行ない、第6章では考察をまとめて結論とし、今後の展望を述べる。