オーディオ作品
ナレーターは今日、テレビやラジオに於いて欠かすことのできない存在である。テレビを見ていればナレーターの声を聞かないことはまず無い。コマーシャルをはじめ、ニュース、ドキュメンタリー、バラエティ、通販など、活躍の場は多岐にわたる。その反面、ナレーターという独立した職業が確立されたのはつい最近のことで、未だに番組のナレーションを担うのは俳優や声優がその多くを占めている。近年では不況の影響もあり、バラエティ番組でも放送局員アナウンサー(局アナ)を起用する例が非常に多く見られる。なおかつ番組改編の時期になっても新番組が作られることは少なくなり、再放送ばかりが目立つようになってきた。
しかし、そういった状況下に於いても職業ナレーターの技術が必要とされる場面が多々ある。特に情報番組のニュースやドキュメンタリーでは職業ナレーターによる語りが求められる。声優や俳優、そしてアナウンサーには無いもの。彼らにはできないもの。それがナレーターには求められている。
また、番組のナレーションの一番大切な役割は「伝える」ということである。映像や音楽だけでは視聴者に伝えきれない部分を伝えるのがナレーションであり、地味でありながら番組を構成する上で非常に大きな役割を担っている。
書いてあることを声に出して読むことなら誰でもできる。しかし、「伝える」という前提がある以上、ただ読むだけではいけない。そして声が良くて発音が明晰で、標準語を話せるなど、多くの人はこういったことをナレーターの特性として挙げるが、果たしてそれだけで「伝わる語り」というのは完成するのだろうか。
ナレーターとして活動する身であり、言葉を専門に扱う者として、何をどうすれば「伝わる語り」になるのか、探る必要があると考えこの作品を制作するに至った。①~④のように読み方を変え、「意味のかかり具合」「息遣い」などに注意し違いをつけた。
① おじいさんは / 女房に / 死なれてから / もう / 長いこと / こうして / ひとりで / 商売を / していますが / みんなから / 親しまれ / ゆききに / ここへ / 立ち寄る / ものが / 多かったので / あります。
② <おじいさんは女房に死なれてから>、もう長いこと、<こうしてひとりで商売をしていますが>、<みんなから親しまれ>、<ゆききにここへ立ち寄るものが多かったのであります>。
③ おじいさんは // 女房に死なれてから // もう長いこと / こうしてひとりで商売をしていますが // みんなから親しまれ // ゆききにここへ立ち寄るものが / 多かったのであります。
④ ㊦おじいさんは // 女房に死なれてから // もう長いこと / こうしてひとりで商売をしていますが // みんなから親しまれ // ゆききにここへ立ち寄るものが / 多かったのであります。(サゲ) おじいさんは // いつも / にこにこして // だれ彼の差別なく客をもてなしましたから // ㊤だれからも // 「おじいさん、おじいさん」 / と / いわれていました。(サゲ)