TURN_A_ROUND / 関達郎

コンサート作品

これまで私の作品に自然と現れていたのは、音楽における一種の空間性を示唆する要素であった。まず、一定の広がりを持つ空間が在り、その空間の中で音楽が行われる。その音楽を構成する各音が、その空間内のどの場所から発生しているのか、また音が発生している地点と聴く人の位置的な関係がどのようになっているのか、といった意味での空間性である。そして、それらが時間軸上で可変していくことを音楽の表現の一つとして採用するということに、どうやら私は興味を惹かれてきたらしい。らしい、という言い方をするのは、「空間と音楽」というテーマは、私が音楽作品の制作を開始した当初はどちらかというと副次的なものであり、必ずしも再重要事項としては設定していなかったためである。しかしそれは次第に、私の音楽に対する意識や自作品の表層へと現れはじめ、いつしか作品制作における第一義となった。

 この場合の空間性を端的に言い表そうとすれば、空間内における音源の位置を発音点と言い換えたとして、「発音点と聴取者の位置関係の可変」とするのが良いであろう。これまでの西洋音楽においても、このような空間性が現れている作品は多数ある。古くは16世紀、ヴェネツィアのサンマルコ寺院における交唱が良い例であろう。寺院内の左右二箇所にせり出した合唱席に配置された合唱団が交唱をすることにより、一種のステレオ効果が発生していた。当時の作曲家たちはこの効果をふんだんに用いており、これはまさにその場所その空間ならではの空間性であると言えよう。古典派〜ロマン派においても空間性を意識させる作品があり、モーツァルトの室内楽作品のいくつかや、ベルリオーズの《ロミオとジュリエット》、マーラーの《交響曲第二番》などが挙げられる。現代になるとそれまでは補助的であった空間性を、より明確に音楽の表現要素として取り入れる作品が出現する。カールハインツ・シュトックハウゼン《三群オーケストラのためのグルッペン》《四群のオーケストラと四群の合唱のためのカレ》、ピエール・ブーレーズ《レポン》《二重の影の対話》などがそれに当たる。

 今回、卒業制作作品を制作するにあたって前述のような音楽における空間性の歴史について紐解くことを行った。自らの音楽における空間性に対する興味を発端とする「空間と音楽」というテーマと、歴史的な思想の流れを合流させようと考えたのである。特にシュトックハウゼンの理論とブーレーズのエレクトロニクス作品における手法には大変大きな影響を受けることとなった。今回の作品《TURN_A_ROUND》において第一に設定したのは、聴取者の位置が固定され、発音点の位置が移動することにより、発音点と聴取者の位置関係が演奏中に可変するということであり、5人のアルトサックス奏者と4chサラウンドのスピーカーシステムを観客席の周囲に配置した。円周状の音場の上で音が前後、左右、回転の動きなどをしつつ楽曲が進行するという形態である。