リレーショナル・アートにおける戦術の考察
――「きむらとしろうじんじんによる野点」を事例に――

畑まりあ/卒業論文

 本稿は、筆者が運営に携わった『きむらとしろうじんじんによる野点』(以下、野点)を美術史の文脈と社会的文脈で捉えていきながら考察するものである。アーティストのきむらとしろうじんじんによって1995 年から始まった当企画は、全国各地の路上や小さな空き地などで実施されてきた。
 楽焼き窯やお抹茶セット一式が積まれたリヤカーや、お茶碗を絵付けする道具を積んだミニリヤカーが街中の一角に設置され、人々がお茶碗に絵付けしたりお抹茶を飲んだりとするのどかな場が現れる。絵付けされたお茶碗を、きむらとしろうじんじんがその場で焼いていく。ドラァグクイーンの格好をしたきむらとしろうじんじんの佇まいは、異様さも醸し出す。のどかであり、不可思議でもあるその風景に、通りすがりの人もふと足を止めていく。
 さまざまな人を寄り集める場を創出する野点を、リレーショナル・アートとして位置づけながら、どのような社会的文脈をもち、社会との交渉をおこなっているのを考察していく。その考察を進めていくために、歴史家ミシェル・ド・セルトーの「戦術」の理論を導入した。

 第一章ではまず、野点の内容や構造を概観する。また、15年以上の歴史がある当企画の変遷を辿っていく。きむらとしろうじんじんは、パフォーマンス集団のダムタイプやその周辺の人々と関わっており、彼らを巡る90年代の動向も考察する。第二章では、リレーショナル・アートを提唱した美術評論家・キュレーターのニコラ・ブリオーの言説を抽出し、リレーショナル・アートの特徴を俯瞰的に探る。第三章では、前章でみたブリオーの言説を踏まえて野点を考察し、当企画の特色を再考する。その後、野点をより広い文脈で捉えていくためにミシェル・ド・セルトーの「戦術」の理論を概観する。第四章では、当企画がどのような戦術を繰り広げているのかを考察していき、野点の醍醐味をみいだしていく。

profile

畑まりあ:プロジェクト2所属。
兵庫県生まれ。身体表現に惹かれながら10代を過ごし、身体の躍動感や人の身振りへの関心は今でも絶えず続いている。今現在は、セルトーの本に魅了されつつ格闘中。