音楽/ パフォーマンス
――音楽概念を拡大するものとしての音楽/パフォーマンスの可能性をめぐって――

北條知子/卒業論文

 本論は音楽とパフォーマンスとの境界上に位置する「非音楽的な要素を持つ音楽」を取り上げ、音楽の文脈の中での価値を考察するものである。
 第一章は、時代とともに変化する音楽の記録メディアに焦点をあて、メディアの変遷に伴い、音楽そのものやその聴き方、基盤となる文化がどのように変化していったのかをみる。ここで明らかになったのは、新しい記録メディアは音楽やその環境を変えるとともに、一つ前の時代の記録メディアが持っていた特徴を逆照射するという点である。
 第二章は、「音楽を聴く際の対象の所在」をテーマに、楽譜を中心とした「ライブ文化」とそれ以後に主流となった「ディスク文化」の二つを取り上げ、それぞれの特徴を探る。両者の特徴は「聴覚」中心的な聴取が存在しているという点だ。そして、この「耳」中心の聴取において重要視されていないものとして演奏の領域を挙げ、従来の聴取に対し言及するものとして扱う。
 第三章では、演奏の領域を発展させたものとして「パフォーマンス」を扱う。確立したジャンルとしてのパフォーマンスと音楽の概念を拡大するものとしてのパフォーマンスの接合点として60年代ごろから発展した図形楽譜の存在を挙げ、ジョン・ケージの《ヴァリエーションズ2》を例に、これらの音楽の傾向・特性を分析する。そして、パフォーマンスが音楽の文脈から切り離して語られるべきものではなく、音楽が見落としてきたものに言及し、可能性を提示するものとして位置づける。
 第四章は、日本のパフォーマンス黎明期について言及し、現代のパフォーマンス作品を取り上げる。最後に、本論によって明らかになった非音楽的な音楽であるパフォーマンスと音楽との関係性によって導き出された三つの視点を提示し、筆者自身のテーマに関するアプローチと重ね合わせた上で考察し、結びとする。

profile

北條知子:プロジェクト5所属。
音楽パフォーマンス、企画など。主な活動に、口パクを用いた「object」シリーズ、パフォーマンス+シンポジウム「方法論としての音楽」、TWS第6回展覧会企画公募入選、トーキョー・エクスペリメンタル・フェスティバルvol.6参加など。第3回AACサウンドパフォーマンス道場優秀賞(愛知芸術文化センター)。http://eemt.net