春と修羅

前村晴奈/朗読と音楽によるコンサート作品

 詩集『春と修羅』より「丘の眩惑」「春と修羅」を朗読と音楽によって表現した作品。
 宮沢賢治の生前唯一刊行された詩集である『春と修羅』は、賢治自身によって“心象スケッチ”であるとされており、修羅(仏教思想の六道の1つで常に争い合う世界)と春(涅槃、究極の理想の境地)の対立する二つが、自己の存在を明確にしながら表現されている。日頃より地質学や農業、自然科学を広く学ぶ他方で法華経をはじめとする宗教や文学についても強い関心を持っていたということから、外界の事象と内界の事象の両方について思索していたと言うことができ、これは同時に春と修羅の「春=情景、外界の現象」で、詩の中で何度も「おれ」という自己の存在を明らかにしていることも合わせて「修羅=自分自身、内面の心象風景」であると考えられる。
 また、詩集と同タイトルになっている『春と修羅』では、少しずつ各行の段が上下にずらされており、全体がうねるような形になっている。これは内面の動揺が外界の知覚をも歪ませている様が表現されている。作品を制作する際、特にこの“うねり”や“歪み”、内面から外界に動揺が伝わっていく様を意識し、朗読や歌声、呼吸音等の人間から発せられる声、音を中心に作品全体を構成した。

profile

前村晴奈:プロジェクト1所属。
鹿児島県出身。朗読と音楽、映像と音楽等に興味があり、制作を行っている。