カクカクシカジカ

吉中詩織/舞台作品

 本、紙、服、チェロ・・・。舞台面には様々な物が散らばっている。そこへ1人の少女が入ってくる。どうやらこの散らばっている物たちは、全て彼女の「思い出の品」のようだ。彼女はひとつひとつの物に遺る過去の記憶を語り出す。まるで全てを吐き出そうとしているかの如く。そして全てを語りきった時、散らばっていた「思い出の品」は彼女の手によっていつの間にか整理されていた。そして綺麗に並べられた物たちを置き去りにして、彼女は劇場を後にしていく。
 一方では、別の時空に帽子の男がいる。そしてその男に忠実に従う5人の部下たち。彼らは、少女が整理した品々を、彼らの主観で舞台面に並べていく。そして男は美しく並べられた「思い出の品」の前で、いかに彼女が素敵だったかを話す。まるで彼女と生涯を共にしていたかのように。最後に男は言う。

遺された私たちの悲しみは計り知れないものでは御座います。
ですが今は悲しみを捨て、彼女の為にそう・・・
彼女のために・・・歌いましょう・・・

 人は、生まれた時から物語に囲まれて過ごしている。
 遺伝子や習慣、生い立ち等、肉体そのものに流れている物語。「子どもの頃に遊んだ公園」「受験の時に使った鉛筆」のように、ある特定の物や場所に貼付けられた物語。ただの身体という入れ物に、ただの物体に、ただの空間に、付加価値としての物語を遺していく。世の中には様々な物語が混在し、私たちはその中で生きている。
 しかし人は、今この時を生きやすくする為に、無意識に物語を書き換える習性を持っている。人生を歩んでいく中で、物語を紡ぎ、時には喪失させ、再構築させるという作業を自然と行っているのだ。その為、物語とは曖昧で、ねつ造されている可能性がある。必ずしも真実とは限らない。だが、その物語に思いを馳せ、少々センチメンタルな気分になってしまった瞬間は、真実と言えるような気がするのだ。。

profile

吉中詩織:プロジェクト4所属。
1989年、東京都生まれ下町育ち。白井晃氏の演出に憧れ舞台芸術の道を志す。入学後は学内でダンス作品・演劇作品を発表しつつ、学外でも活動の幅を広げていく。現在役者修行中。