元木一成/卒業論文
ヘッドホンユーザーやイヤホンユーザーの間で、エージングというものが話題となることがある。ここで言うエージングとは使い始めにしばらく音を鳴らすことにより音質を向上、安定させようとする考えである。しかしその効果の是非はユーザーの間でしばしば議論が交わされており、先行研究もほとんど無いのが現状である。
筆者は本研究で、まずスピーカーとヘッドホンの構造からエージングの仕組みを仮説づけた上でエージングの可能性を考察し、実験1で実際にピンクノイズを用いてヘッドホンSONY MDR-CD900STを500時間エージング処理、測定をし、周波数特性の変化の経過を観察した。次に実験2では、ユーザーが実際にエージングによる音の変化を聞き分けることができるのかどうかを確かめるため、実験1における測定誤差も含めた周波数特性の変化をパラメトリックイコライザーにより再現し、12人の被験者に協力してもらいAXB法を用いた聞き分けの実験を行った。以上の2つの実験から、エージングは実際に効果があるのかを検証、考察した。
実験1では、ヘッドホンSONY MDR-CD900STにおいて、エージングによる周波数特性の変化は要因として測定誤差によるものが大きいもののグラフの変動は見られた。しかし、その周波数特性の変動からエージングを模したフィルターを用いた聞き分けの実験2では、ピンクノイズを音源として使用した問題では聞き分けができたものの、楽曲においてエージング前後の音質を聞き分けることはできなかった。
以上の実験結果から考察した結果、ヘッドホンSONY MDR-CD900STにおいてはエージングによる周波数特性の変化は測定誤差範囲内であり、エージングをすることによって通常の使用において知覚できる音質の変化はないであろうという結論に至った。