電子書籍は救世主になり得るか
――変わっていく世界と、変えてはならない文化――

奥谷千尋/卒業論文

 社会は電子化の一途をたどっている。テレビも、新聞も、書籍も、電子化の波から逃れることはできない。そんな中2010年は電子書籍元年と呼ばれ、続いて2011年もそんな風潮を継続した。電子化は社会を狭く、便利に、よりスピーディーに変える。しかし、失ってはならないものを、切り捨ててはいないだろうか?
 本論は、電子書籍の現在を、高校生を顧客と設定してマーケティング分析を行い、その結果から今後に言及することを目指したものである。今後に言及するための手法として、①調査対象である‘高校生’を考察、120人へのアンケートを実施、②環境分析、③4P分析、④業界分析、以上の4つの物差しを用いて現状の分析を行った。
 書籍は、中身そのものが重要な文化的価値を持つものであるが、それと同時に、書籍を読むという行為を取り巻く環境自体が、重要な文化的要素の一つであると筆者は考えている。本を誰かと貸し借りするという文化の共有、一度読んで、それからでも買いたいと思える収集の価値など、書籍を取り巻く行動そのものが文化であると考えられるわけである。つまり、書籍を電子化することによって、これらの文化も失われてはならいないのである。
 現状の電子書籍ビジネスは、とりあえず電子化することに比重を置き、電子データ化した本文を、インターネットを介して購入や管理をできるようにさえすれば良い、と思っているような節が見受けられる。今のままでは、書籍の持つ文化的な価値が損なわれることにつながりかねない。
 現在は、インターネットそのものが発展途上にあるといっても過言ではない。書籍の電子化を通して、インターネット世界に新しい価値を持ち込めるような仕組みづくりを目指していくべきではないだろうか。

profile

奥谷千尋:プロジェクト5所属。
多摩生まれ、多摩育ち。趣味は妄想と現実の間を辛辣に行き来すること。そのためのネタ探しに余念がない人生です。いまや立派な活字&映像フリーク。将来の夢は維新の志士(妄想ではない)。国を動かす仕事をしたい(妄想で終わらないように、キリキリ働く所存です)。