中川研人/卒業論文
東京藝術大学音楽環境創造科では、主に録音技師や音響技術者、音響研究者を志す学生を対象とした講義の一部に聴能形成を取り入れている。「聴能形成」とは、音に対する感性、特にその音の違いを音の物理的要因の違いと対応づけて聴き分ける能力の養成をめざして行う訓練および学習のことであり、音に関するさまざまな仕事に従事するためには、音に対する鋭い感性を養うことは大切なことである。
近年、「iTunes Store」や「着うた」に代表される音楽配信サービスやレンタルCDのリッピング、無料動画配信サイトでの聴取など、機器やメディアの多様化によりユーザーの音楽の楽しみ方は大きく変化していると言える。しかし、そうしたサービスにはMP3やAACなど一定の音質劣化を許容した聴覚符号化法が採用されており、録音技師でなくとも音に関わる仕事をする以上、コンテンツの品質の一つである音質に関して注意を払う能力を備え、音質差をもたらす要因を理解しておくことは重要である。
以上の動機から、圧縮符号化方式として有名なMP3に着目し、音楽環境創造科で聴能形成の訓練を積む学生に対してCDとMP3との音質差を識別する訓練を実施した。また、併せてCDとMP3との音質差の聴き分けに関する2回の主観評価実験を行い、識別訓練の有無による正答率の差が有意であるかをMann-WhitneyのU検定により分析した。分析結果より訓練の成果について考察し、一定の訓練効果が得られた事が分かった。