1960 年代覗草子
――9チャンネルによる音響とイラスト――

高橋沙弓/9chスピーカー再生

 1960年代の文化や現象(や思想)の中に放り込まれ、また1960年代の音楽やイラストや漫画に強い興味を持っていた筆者は、1960年代、そして現代と、一見全く違うが実は根底では繋がっているように思えた。そして二つの時代をザ・フォーク・クルセダーズ(テープの早回し、オーバーダビング、クラシックのフレーズのカリカチュアライズされた形での導入などありとあらゆる新たな切り口を提示したフォーク・グループ)とBEAT CRUSADERS(ガレージ・ロック、パブ・ロック、パワー・ポップなど、さまざまなジャンルの音楽の影響が混在しているニュー・ウェイヴ的な楽曲が中心のロック・バンド)という二組のバンドを主なモチーフにし、今まで学んで来たコンピュータエフェクト(主にMax/MSPやSPEARを使った音響作品)を有効に使ったミュージック・コンクレートと言う手法で繋げてみたら新たな面白みが見えてくるのではないかと思い、今回の作品を作ろうと試みた。
 5チャンネルのスピーカーを半円状に置き、60年代と現代をイメージした音響作品を流す。その5台のスピーカーとスピーカーとの間にイラストを4枚置き、その下の床に一枚一枚の絵のイメージに合った音響作品を流すスピーカーを置く。5チャンネルのスピーカーの位置を高めに設置したのは、現代を生きる私を含む観客が60年代を俯瞰的に覗いているという意味を含む。そして床に置いた60年代の音源(特にザ・フォーク・クルセダーズ)をベースに作った音源を流す4台のスピーカーは、こんな時代があってこその現代、といった土台のような意味合いを持つ。

profile

高橋沙弓:プロジェクト1所属。
群馬県出身。学内ではコンピュータミュージック、学外ではイラストや漫画で活動中。