相澤里紗、宗近智美/サラウンド再生アニメーション/共同制作者:岩瀬夏織里(東京藝術大学 美術学部デザイン科)
映像サイドの創り上げてきた物を理解した上で音を提案していく、ポスプロという従来の音作りは、既に構築された監督のイメージや経験すべてを汲み取ろうとすることは非常に困難で世界観の共有に限界があると感じた。そこで、今までの作品作りよりも早い企画段階から制作に関わり、より長期的に行動や経験を共にしたり、相手の価値観を理解することで、互いに描きたい世界をより明確に共通認識を持って描くことができるのではないかと考えるに至った。本作品は共同制作者3人で作品の誕生から旅立ちまで深く関わり、作品研究や情報収集を共に行なって解釈や表現を擦り合わせ、できるだけ共通言語を増やした上での作品づくりを試みた。
音が単に映像の補完となるのではなく、本作品のテーマである『水の流れと時の流れ』『記憶』を映像の平面より浮き上がらせ、視聴者の心理的、体感的に伝えたいという思いがある。
―あらすじ―
最近めっきり痴呆気味になった婆ちゃ。婆ちゃの唯一の生き残っている友達は、巨大に成長した白銀金魚の玉ちゃんだけだ。ある夜のこと、水槽の水が湧き出して玉ちゃんが外に落ちてしまう。異変と音に気づいた婆ちゃが廊下を見ると、築100年の古民家で素晴らしく磨き込まれた楓の長廊下は、まるで身を映す鏡のような静かな川になっていた。婆ちゃはタライに乗り、玉ちゃんを追いかける。やがて流れ着いた先で婆ちゃが見たものは、彼女の忘れてしまっていた記憶の根源だったのである。