東京藝術大学 大学院 音楽音響創造

修士論文:関連記事

要旨

川端 啓太
旋律型の分類による印象評定を用いた作曲の一手法

近年における音楽認知研究の活発化の中で、細分化される音に注目するあまり、根 源的な「音楽らしさ」が欠如する例が指摘されるようになった。今日における音楽音 響分野などの技術的な研究の発展にも伴い、音楽認知研究に対する音楽家の意見、芸 術表現の重要性を見直す機会が一層重要となっている。

そこで本研究では、音楽家の立場から音楽認知と作曲に対する研究を行うことを前提とし、主観性と客観性の両方を兼ね備えた作曲の一手法を提案する。以下にその具一体的な流れを示す。

まず、研究対象を人間が音楽を聴くうえで最も認知されやすい旋律に絞り、メロデ ィーやリズムによる旋律型の分類に従って九つの旋律を作成する。次に、音楽的性格 を表すための印象語として「楽しげな」「穏やかな」「情熱的な」「厳かな」「気ま ぐれな」「覚えやすい」の六つを選択し、作成した旋律に対してそれぞれの印象語が どれほど当てはまるかを調査する印象評定実験を実施した。なお、印象評定実験への 適応を考慮し、作成する旋律は音色をピアノ・ソロ、ハーモニーを中庸な調性による 最小限の進行、テンポをBPM=100に統一した。この実験の結果を分析することによ り、それぞれの旋律が聴き手にどのような印象を与える傾向があるか、またそれはど のような音楽的要素の影響によるものかを体系的に調査した。最後に、実験によって 得られた結果を作曲に応用する可能性について検討し、舞台・映像音楽など聴き手に 一定の印象を与えたい場合や、音楽的要素をあらかじめ決めたうえでその旋律がどの ような印象を与える傾向があるかを知りたい場合などに役立つ可能性があることが 明らかになった。


KAWABATA Keita
A method for music composition by the use of impression evaluation according to classification of phrase type

On the development of music cognition research, it has been claimed thatthe musical essence were lost because it subdivides sounds too much. With the development of technological researches such as the field of Music Acoustics, the opinions of music cognition research from a musician’s point of view and the opportunities to review the importance of artistic expression have become more important.

This thesis suggests a method of music composition that comes from both objectivity and subjectivity views, supposing the research about music cognition and composition from a musician’s standpoint. A concrete flow is as follows:

First, the target is only limited to a phrase(a melody outline). According to classification of phrase type on melody and rhythm, nine phrases were composed. Then, in order to express musical characters, six adjectives – joyful, calm, passionate, solemn, capricious, and easy-to-memorize – were chosen and an impression evaluation experiment was performed for examining how much each adjective fits for a composed phrase. Balancing applicability and scientific validity of the experiment, all phrases were performed in piano solo with a programmed synthesizer, with the minimum chord progression of mean chords(non-major/non-minor) and with the tempo of BPM 100. Through an analysis of the experiment, it was systematically investigated that the tendency of impressions each phrase gives on listeners and what musical elements cause these effects. Finally, the possibility to apply the results of the experiment to music composition is examined. It is suggested that the method will be useful in the case of giving listeners the similar impression for the use of stage/screen music, or the situation that a composer wants to know the tendency of phrase
impressions.

要旨

金 惠貞
黒人霊歌からゴスペルへの定着過程に対する考察

新しい賛美歌を習うたびに、神に使わされた天使がその曲の楽譜を教会にのこして去っていく場面を真剣に想像していたのだが、青少年になってからは作曲者がいて、色んな編曲や解釈があるというのを知った。しかし、高校を卒業するまで誤解していたことがある。それは、ゴスペルを黒人霊歌と呼んでもいいと思っていたことである。確かに黒人霊歌にはゴスペルといっても良いような曲があるのが事実だが、ゴスペル全体が黒人霊歌と考えていた。

その誤解は大学に入って、ワールド・ミュージックという授業を受けてから晴れた。黒人霊歌はアメリカで18Cに出来たもので、ゴスペルがゴスペルという名で呼ばれるようになったのはそれからずっと先のことなんだと理解した。ブルースやジャズの中のリズム・パター ンもアフリカンたちの歌、または黒人霊歌と言われる音楽から派生して来て出来たというこ とも知った。私が教会で歌っていたいわゆるゴスペルはリズムやメロディーで切り分けられ るような音楽ではなかった。リズムや和声がブルースであっても、8ビートのバラッドでもクラシックの弦楽器編成で奏でられてもそれはゴスペルというカテゴリーの中の音楽だった。その後、ますます黒人霊歌やゴスペルについての研究に興味を持った。そして「声」という素材を用いた音楽としての黒人霊歌もとても興味深いと思い、この研究を進めるようになった。


Negro spiritual – the song of black slaves who were forcefully transported from Africa – is a deeply religious music which expresses the hope of those people to escape from pain and suffering. There is no question that these songs have exerted a great influence on contemporary music. The style it has most influenced is gospel music, its most similar contemporary counterpart in terms of both role and sound. The two styles are similar enough to often be confused with each other. The reason for this is largely that gospel music attempts to introduce the Negro Spiritual to present society via Western style musical arrangement, and appeal to the strong religious faith of African Americans by using the Negro Spiritual style, as well as emphasize the creative ability of black people. However gospel was able to wholly transform the negro spiritual into the form of a hymn, thus overcoming the antipathy that many black people later felt towards the negro spiritual as a result of its associations with slavery. Through this transformation, white Americans also came to recognize the musical ability of African Americans, and black people were able to take a leading role in metropolitan music culture. From the 1920s, black gospel enjoyed a boom, and the black sound drew a large response worldwide. From the 1950s to the 1960s, gospel also became associated with the Civil Rights movement and came to have a large influence on American society both socially and culturally.

要旨

砂守 岳央
インターネットにおける聴取実態の調査

近年、インターネットを通じた音楽聴取については日進月歩の勢いで進歩し ており、いまや音楽聴取体験において大きな割合を占めるようになっている。 本論文では、インターネットを通じたアンケート調査とリスニングテストによ り、聴取者の再生環境における音響特性について調査および考察を行った。

インターネットを通じた視聴において、使用される再生環境は多岐にわたっ ていることが予想される。PCにおいては、従来のCDプレーヤーなどと比べ て商品展開の幅が広い上、外付けのスピーカーやイヤフォンを使用されるケー スも多いからである。このことは、現在、音楽制作の現場において重大な問題 となっている。インターネット向けの制作の場合、視聴者の環境を想定するこ とが難しいからだ。本論文の調査は、そのような、制作現場において有用な指 針を作ることが目的である。

そこで、今回の調査では、ネット上でのプログラムを使用した、規模の大き な調査を行うこととした。被験者の募集と調査の実施はともにWeb上で行わ れることとなった。まず予備実験とプログラムの動作チェックを兼ね、2009 年11月28日~11月29日、東京藝術大学音楽環境創造科に所属する録音 専攻の学生と教員計18名向けに調査を行った。その結果を検討し、聴取実験 を調整した上で、2009年 12月5日~12月7日、一般向けの調査を行った。 最終的な被験者数は320名であった。

調査にあたり、FLASHを用いた調査システムを設計、実装した。調査シ ステムはアンケート、低音域リスニングテスト、高音域リスニングテストの三 部から構成される。リスニングテストは、ピンクノイズとローパスフィルタ、 ハイパスフィルタを利用して、低音域、高音域が被験者の環境においてどの周 波数帯域まで再生されているかを調査するものである。調査には極限法が用い られた。その結果はメールを利用して収集された。

収集されたデータをチェックし、問題のあるデータが取り除かれた。これ により、データ数は、アンケートと高音域テストが319名、低音域テストが 269名となった。

アンケートの分析結果により、被験者層の特性が明らかになった。この際、 被験者の使用している再生環境を「ヘッドフォン型」「内蔵型」「外付け型」の 三型に分類した。それぞれの割合は以下の通りとなった。

・ヘッドフォン型・・・40%
・内蔵型・・・39%
・外付け型・・・21%

リスニングテストの結果は、分散分析と箱ひげ図の作成によって分析された。 その結果、以下のことが明らかになった。

・低音域の再生、聴取には環境によって大きな差がある。
・これには、再生環境のタイプの違いが強く影響している。
・低音域の再生、聴取に被験者の年代はほとんど影響がない。
・高音域の再生、聴取には環境による差は少ない。
・再生環境のタイプの違いの影響は確認されなかった。
・高音域の再生、聴取には被験者の年代の影響が見られた。

インターネットを対象とした制作にあたっては、低音域の扱いに注意が必要 であるということが、以上から示唆される。また、多くの被験者を募ることに 成功したことから、インターネットを通じた被験者募集には非常には大きな可 能性があるということも明らかになった。


SUNAMORI Taketeru
Research on condition of the audio listening via the Internet

These days, the audio listening via the Internet becomes quite popular. In this research, we investigated acoustic condition of listeners via the Internet with questionnaire and listening tests.

Conditions of the audio listening via the Internet should have wide range, because people have a lot of choices to play audio with personal computers (PCs). They can use internal loudspeakers, headphones or external loudspeakers. Recently, it becomes a large problem in the field of sound production. Producers and engineers can’t imagine how acoustic conditions of their customers are. The aim of this research is to make criteria in this field.

A FLASH program was designed to collect data via the Internet. Program is composed of three parts – questionnaire, low frequency listening test, and high frequency listening test. The purpose of listening tests is to find out how low or high subject can be heard with gears they usually use. Pink noise and LPF/HPF used to make test signals. Test sequences follow “Method of Tracking”.

In analysis, we classified types of devices in three groups.
(I)Internal Loudspeakers 40%
(II)Headphones (includes earphones) 39%
(III)External Loudspeakers 21%

Collected data of listening test analyzed with ANOVA and Box-plot. As the result,

  • There is a major differences in low frequency reproduction.
  • There are many correlations between low frequency reproduction performance and the type of devices.
  • No relationship are found between low frequency listening ability and age of listeners.
  • Differences in high frequency reproduction is much smaller than that of low frequency.
  • Correlations between high frequency reproduction performance and the
    type of devices are also small.
  • There are correlations between high frequency listening ability and age of listeners.

To conclude, low frequency sound should be treated with special attention in the production purposed the Internet. And also, we can say data collection via the Internet have great possibilities.

要旨

田中 文久
深井史郎の映画音楽 一トーキー黎明期における実験的手法一

本論文は、日本の作曲家である深井史郎の、戦前の日本の映画音楽における実験的な手 法や考え方を論じたものである。特に戦前の1930年代における作品と、その中に見いだせる深井史郎の映画音楽の理論について述べる。

映画が1894年にパリで生まれ、世界初のトーキー映画「The Jazz Singer」は1927年に 制作された。当時の情報の流通速度を考えると、日本の1930年代はトーキー映画の黎明期 といえる。映像と音の関係には定まったものはなく、常に模索され続けている状態であった。山田耕筰や早坂文雄、そして本論文であつかう深井史郎など、当時最先端で活躍して いた作曲家もどんどん映画音楽に関わるようになり、様々な実験的な手法が試みられた。

1936年に《パロディ的な四楽章》を発表し、コンサート作品の作曲家として既に有名で あった深井史郎は、1935年に彼にとって初の映画音楽である《長崎留学生》の音楽を担当 し、戦前の映画音楽の作曲家の中でも有名な存在となっていった。

深井は映画音楽に音楽の新たな活路を見いだしていた。同時代の作曲家を批判しなが ら、映画音楽が軽視されがちだった当時において、コンサート作品と映画音楽の両者のギャップを埋めようと努めた。

また彼は映画の音響芸術、時間芸術としての特質を見抜き、「色彩」「対位法」と深井 が呼んだふたつの概念を理論化し、自身の映画音楽で実践していた。ここにおける「色彩」とは、音色を様々にコントロールすることによってうける直観的印象を操作しようと することである。またここでの「対位法」とは映画における諸要素を並列に捉え配置して いくことであって、一般に映画で用いられている、映像と音楽の対照をみせるという意味の「対位法」ではない。

そのような深井の映画音楽理論は、アヴァンギャルドというよりはむしろ、現代のわたしたちにとっては不文律的に理解している当たり前のことのように見えるものであるかも しれない。だが、トーキー映画が出来てまだ10年と経たないうちにそのような理論を形成 していた深井は、現在なされているよりもさらに評価されるべき作曲家の一人ではないだろうか。


TANAKA Fumihisa
Shiro Fukai’s Music of Cinema
The experimental technique at the dawn of the Tokie-movie –

This thesis discusses the experimental technique of Shiro Fukai’s music of cinema in Japan before the Second World War, particularly examining work from the 1930s, and the theories of Shiro Fukai’s music of cinema.

The movie was born in 1890 in Paris. The First Tokie-movie “The Jazz singer” was exhibited in 1927. Considering the speed of infomation for that period, 1930s Japan can be described as the dawn of the Tokiemovie. There were no definitions about the relationship between cinema and music. The most popular composers of that time, Kosaku Yamada, Fumio Hay asaka, and Shiro Fukai had began to compose for cinema, using various experimental techniques.

Shiro Fukai, was already popular a composer of concert music, having produced ‘Four movements as the Parody’. In 1935 he composed music for the movie ‘Nagasaki Ryugakusei’ (A student studying in Nagasaki), his first work for film. From this he became popular as a composer of music for cinema.

Fukai had found in the music of cinema a new method of musical expression. Criticising composers of the same generation, the music of cinema had been often slighted for that day. He had been trying bridge the gap between the music of cinema and concert music.

He discovered two important characteristics in cinema. One was the sound-art, and the other was the time-art. He theorized the two characteristics, and he called them “color” and “counterpoint”. This word called “counterpoint” was not intended to mean the contrast between movie and music in cinema. It was intended to express regarding without some ranking, the arranging of all factors in cinema.

This theory of the music of cinema that Shiro Fukai theorized, can be seen today as an established law of cinema. Given this significant contribution to cinema history, Shiro Fukai, who produced such theories during the 10 years after the birth of Tokie, should be comprehensvely evalutated.

要旨

金井 哲郎
奏楽堂の可変天井による残響の変化と録音への影響について

東京藝術大学構内に奏楽堂というコンサートホールがある。このホールは様々な音楽ジャンルに対応するために大規模な天井可変機構が備わっている。本研究では天井毎の残響の違いと、録音位置で のマイクでどの様な響きの変化が起こっているかを調査した。

以下の7つの天井高・舞台セッティングに関してインパルス応答収録実験を行った。

1.フル天井(最も天井を高くした状態で、パイプオルガンのコンサート等に用いられるもの)
2a. オーケストラで用いられるもの(ひな段なし)
2b.オーケストラで用いられるもの(ひな段あり)
3a. ピアノで用いられるもの
3b.声楽で用いられるもの
4.3bから舞台上天井を変更したもの
5.邦楽で用いられるもの

この実験は、単にホールの残響を測定することだけが目的ではなく、奏楽堂でのコンサート録音に 生かせるデータを得る事が目的である。そのため、インパルス応答の収録には、ダミーヘッドや測定 用マイクだけでなく、実際の録音で用いるマイクやそのセッティングも用い、また、本研究室で研究 中である高さスピーカーでの再生を目的としたマイクでも測定を行った。なお、フロント側のマイク はそれぞれの天井高/音源位置に対して、奏楽堂での録音でよく使用するマイク位置と、その前後1mずつの3箇所に設置した。

これらのデータを用いて試聴実験を行った。7のうち4つの天井パターンに絞り、サラウンド収録で用いるセッティングで収録したインパルス応答のデータを使用し、無響室で録音したテンポや音符 の細かさが異なる3つの音源に畳み込んでサラウンド音源を作成した。

4種類の天井パターンに対して、それぞれ3種類のマイク位置のデータを用いて畳み込んだ12種類 の音源を、被験者が自由に切り替えて聞けるようにし、それぞれの評価をスライダーを用いて序列化 した。評価語として「残響の明るさ」「包まれ感」「心地よさ」の3つの形容詞を用い、3 種類の音源(トランペット、バイオリン、フルート)それぞれについて3つの形容詞の評価を行った。

これを集計したデータから平均値と95%信頼区間を計算・分析した。その結果以下の事が言える。

・ 1のフル天井ではマイクを基準位置より離すと「心地よさ」が減る
・邦楽仕様の天井ではフロント側のマイクを離すことで「包まれ感」が増す
・ 邦楽仕様の天井では
・ 楽器の別に関わらず近いマイクで「明るさ」「心地よさ」が低くなる
・ オーケストラ仕様の天井ではトランペットとオーボエの音源でマイクを遠くした時に「包まれ 感」が増す

本研究で用いたインパルス応答は非常に大掛かりな実験をして得られたデータであり、今回の論文 に記述した以外にも様々な視点から分析・実験を行うことで新たな発見があると思われる。

なお、収録実験で得られた全てのインパルス応答の音声ファイルや、試聴実験に用いた無響室の音 源及び、集計結果、平均値と95%信頼区間を示した表等を付録の DVD・R に収録した。これらを用いれば様々な音源にインパルス応答を畳み込み、天井ごとの残響の違いをその音源でシミュレーション する事ができる。また、客席で聞こえる音をヘッドホンでシミュレーションする事なども可能であり、 様々な活用方法があると考えられる。


KANAI Tetsuro
On changes of reverberation due to the adjustable ceiling panels in Sogakudo concert hall and the effect to music recordings

A concert hall Sogakudo has variable ceiling panels. Usually the ceiling panels are adjusted according to music genre. In this research, acoustical changes in Sogakudo due to the adjustable ceiling panels was investigated, and how those changes affect the recordings made in the venue.

Impulse responses were recorded at seven settings of ceiling panels. Each settings were most commonly used for:

1. a concert of pipe organ,
2a. an orchestra without steps,
2b. an orchestra with steps,
3a. a piano solo concert,
3b. vocals,
4. a variation of 3b, which is usually not used, and
5. a Japanese traditional music concert.

Eighteen microphones were used for this measurement. The microphones configurations such as “Omni-8 front microphone array” and “Omni-square ambient microphone array” were placed with music recordings in mind as well as the ordinary impulse response measurement setups. The impulse response data obtained from these microphones can be used with five-channel surround speakers with sufficient computations. Especially, recordings using the Omni 8 array were made at reference position, lm near, and 1m far from the speaker.

Subjective evaluations of 12 sound stimuli of four ceiling settings and three frontal microphone positions were done. Three anechoically recorded music excerpts were convoluted with the 12 impulse response files resulting in 36 sound stimuli. Sixteen participants rated on a scale of 0 to 100 with vertical sliders on a computer graphical user interface. Three adjectives “Brightness”, “Envelopment” and “Comfortableness” were used for the evaluation.

As the result,

  • Ceiling No.1 with far microphones was rated low in “Comfortableness,”
  • Farther microphones with ceiling No.5 was rated higher in “Envelopment,”
  • Nearer microphones with ceiling No.5 was rated lower in “Brightness” and “Comfortableness,” and
  • Trumpet and oboe played with farther microphones with ceiling No.2 were
    rated higher in “Envelopment.”

All impulse response files are included in appendix DVD-R, The recorded impulse response files are expected to provide valuable information in further investigations.

要旨

山田 美慧
音楽再生における奥行き感の表現をめざした録音方法の検討
――高さ方向からの再生による試み――

最近では 5.1ch サラウンドが家庭にも浸透しはじめ、テレビ放送においてスポーツの 中継や映画の放映だけでなくサラウンドによる CM の制作もおこなわれている。しか し、視覚情報に頼らない音楽再生を考えた際は、音のみで空間特性を表現しなければな らない。この場合、左右の広がりや包まれ感だけでなく、前後の立体感つまり奥行きが 重要な要素である考えた。奥行きに関するもののひとつに“ensemble depth”という視 点からの研究がある。本研究ではこの ensemble depth を聴取位置の前方における楽 器郡の奥行きと定義し,より豊かな ensemble depth を実現するための録音方法を検討した。また、音場の再現性を高めるために,反射音を側方や上方から再生する研究が されていることから,高さ方向からの反射音の再生が必要ではないかと考えた。そこで, 5.1ch サラウンド音響システムで再生することを前提に, ensemble depth を表現する ために効果的なスピーカーの位置についても検討した。

まず,録音方法の試みとして、奥行き感の実現に寄与していると仮定した位置に,二 組のマイク (以下,M_HI, M_H2)を設置し、スピーカーからモノラル再生した音を 録音をした。この二組のマイクは通常のメインマイクよりも高い位置に設置された。こ の二つのマイクと比較する目的でメインマイクと同じ位置にもマイクを設置した(以下、 M_M”)。また, 再生方式の検討として,このマイクで収録した音を再生するのに適した スピーカー位置を検討した。まず,既存の 5.1ch サラウンド音響システムの上方,仰角 30, 中心から±30, ±60°, ±90°の位置に設置した。この上方のスピーカーから M_H1, M_H2 を再生し、その効果をアンケートによって調査した。最終的に, 上方スピーカー は中心から+60°とした(以下、S_H60)。

次に,実験1 として先に録音した音源を用いての主観評価実験を行った。評価手法と しては、GAL (Graphical Assessment Language)法を参考にした。これは、再生される音の印象を図示する方法で、今回の実験では、音の広がりや奥行きを楕円で図示する よう求めた。分析の結果,再生するスピーカーの違いによって,音源までの距離が前後 することがわかった。これは M_M’, M_H1, M_H2 のいずれにもあてはまった。音源の 横幅(Source width)の変化に関しては、フルート,ヴァイオリンの両方でスピーカーに よる差があらわれた。横幅の知覚に関して,S_H60 による再生での楽器による要因が 主効果としてあらわれた。また,音源の縦幅(Source depth)の変化に関しては,音源までの距離と楕円の横幅の場合と比べてスピーカーによる差が小さかった。

次の段階として,実験1 に関する考察をふまえて、複数の楽器による演奏を録音し、 実験1 と同様に GAL 法によって評価実験を行った。これを実験2とし、主に ensemble depth と ensemble width について分析した。その結果、マイクによる違いについて 統計的な有意差は得られなかった。しかし、実験後のアンケートから、被験者がマイク の違いについて、奥行きも含めた空間印象の違いや音色の違いを述べていることから、 今後は、奥行きに関するより効果的な収録方法の検討と、適切な実験手法の検討を行ってゆきたいと考えている。


YAMADA Misato
Investigations on the recording technique to reproduce sufficient ensemble depth for Music
—An experiment with elevated microphones and upper loudspeakers—

The aim of the research was to investigate microphone setups and reproduction systems that can recreate perceived depth of a classical music reproduction in a concert hall. The hypothesis of the research in multichannel surround system refers to the idea that the depth of a group of sound sources, which was defined as “ensemble depth,” is identifiable with a pair of additional microphones with a proper reproduction channels.

Two pairs of microphones were arranged for recording the reflected sound from the ceiling.
Two experiments were done to investigate the effects of the microphone setups and the speaker setups using GAL (Graphical Assessment Language) method, comparing elevated and non-elevated microphones and loudspeakers. From the analyses of distances of the instruments from the listener, ensemble width, and ensemble depth, the effect of the elevated loudspeakers were significant but not the effect of the elevated microphones.

要旨

中村 桃子
ライブ・エレクトロニクス・ミュージックにおける創作技法の変遷

ライブ・エレクトロニクス・ミュージックについて、まずは、ライブ・エレ クトロニクス・ミュージックの諸現状を知るために、その歴史を紐解く。

様々な作曲家によるライブ・エレクトロニクス・ミュージック作品は、いったいどのような手法(加工方法)が用いられ、またどのような目的でライブ・ エレクトロニクスという形態をとっているのか、そしてそれらの作品はそれより以前の作品からどのような影響を受けてきているのだろうか。順に時代を追 って考察していく。

更に、テクノロジーの発展によりコンピュータが出現すると、コンピュータ を利用した音楽作品が作られるようになる。このコンピュータの利用により、 ライブ・エレクトロニクス・ミュージック作品は、その創作の歴史の過程で、 更に大きな発展があった。

そこで、テクノロジーの発展に伴う技術の歴史的な変遷が、ライブ・エレク トロニクス・ミュージックの手法を変容させ、現在どのような状況を作っているかを検討することを目的とし、本論文の主旨とする。


NAKAMURA Momoko
TRANSITION OF CREATIVE TECHNIQUE IN
“LIVE ELECTRONICS MUSIC”

To know the present status of “Live Electronics Music,” firstly this essay covers the history of it

“Live Electronics Music” by various composers – how are they processed, on what purpose do they use the term “Live Electronics Music,” and what kind of inspiration do they get from work in the past – this essay studies these themes chronologically.

Furthermore, musical work using computers began to be made after the birth of it caused by technological development. This use of computer made those work develop even more in its history of creation.

What kind of inspiration does the transfiguration of process caused by technological development make on current “Live Electronics Music”? This would be the keystone of this essay and it focuses on this point and examines it.

要旨

西井 夕紀子
児童を対象とする音楽を用いたパフォーマンスの可能性

本論は、公立小学校におけるパフォーマンス実践を出発点として、子どもと パフォーマンスの理想の出会いを探るものである。

学校における、教師、生徒の遂行性を視野にいれながら、「教育関係論」を概 観し、そこに相対的な価値を付加できるようなパフォーマンスづくりを、「遊び」 「スケッチ」「インプロヴィゼーション」といったキーワードを用いて論じる。


NISHII Yukiko
A Potential of Performance Using Music for Children

This study tries to find out the worthy performance for children in the school. It was started from my performance activities in public schools.

“What is the encounter of children and art?” is discussed by some point of views, for example, relationship, play, sketch, and improvisation that can add more worth to school life of children and teacher.

要旨

平本 正宏
日本電子音楽の創成期
一東京藝術大学音響研究室の活動一

本論文を通して、日本電子音楽の創成期に東京藝術大学(以下東京芸大と記 す)音響研究室が行った電子音楽教育・研究活動を検証し、その活動の変遷を 紐解きたいと考える。

1967年、東京芸大に設立された音響研究室は、1970 年アメリカ製のシンセ サイザーのブックラ・システムを導入したことにより、その電子音楽教育・研 究活動を開始した。それ以前に東京芸大では、一部の学生や教官からは電子音 楽に対する注目が集まっていたものの、関連した教育・研究活動は行われては いなかった。音響研究室は、ブックラ・システム導入後も、モーグ II – P 、ア ープ 2500 といった 1970年初頭に最先端のテクノロジーを駆使して作られたシ ンセサイザーを続けて導入し、研鑽を積み重ねていく。当時、まだ学内での電 子音楽に対する認識は低く、音響研究室で始められた電子音楽教育・研究活動 についても一部の興味を持つ学生が自主的に参加していただけであったが、 1974 年に大学院作曲専攻の学生を対象に電子音楽の講義が開かれるようにな ると、徐々に広がりを見せる。そして、1983年には音楽学部全学科学生を対象 とした「電子音楽概論」という講義が開かれるほど、音響研究室での電子音楽 活動は学内で認識され、東京芸大での音楽教育に必要な存在へと発展していっ た。しかし、この 1980 年代中盤より、音響研究室はその電子音楽教育・研究 活動を衰退させていく。そこには、テクノロジーの進歩に伴う電子音楽の一般 社会への普及および、次世代の電子音楽・電子楽器の登場が関係していた。

前述の音響研究室の電子音楽教育・研究活動は、東京芸大で学び現在日本音 楽界の最前線で活躍されている作曲家たちの創作に影響を与えた。また、電子 音楽やコンピューター音楽の専門的教育が行われている音楽環境創造科 (2002 年設立)の教育へも多大な影響を与えていると考える。

音響研究室での電子音楽教育・研究活動の変遷を紐解くことは、テクノロジ ーと向き合い創造されていく芸術を探求する姿勢を紐解くことであると考える。


HIRAMOTO Masahiro
The Early Period of Japanese Electronic Music :
The Achievements of the Acoustics Laboratory at Tokyo Geidai

In this thesis, I inspect and read the achievements and history of the Acoustics Laboratory’s education and studies about electronic music at Tokyo Geidai in the early period of Japanese Electronic Music.

The Acoustics Laboratory in Tokyo Geidai was founded in 1967.In 1970 it started the education and studies about electronic music, since it imported Buchla System, a synthesizer made in USA. Before then the activities of electronic music wasn’t done though some students and teachers paid their attention to it. After importing Buchla System, the Acoustics Laboratory continued to import new synthesizers (Moog I-P, and ARP2500, which were made in the newest technology in early 1970s ), and continued its studies. At that time electronic music was not well known in Tokyo Geidai, and few students joined the seminar of electronic music in the Acoustics Laboratory. But in 1974 the activities of the Acoustics Laboratory explored because of the establishment of lecture about electronic music in graduate school. In 1983 the achievements of the Acoustics Laboratory was known well, and the education of electronic music was thought it was important in Tokyo Geidai as the lecture “The Introduction of Electronic Music” was established for all student. But since the middle of 1980s, the activities of the Acoustics Laboratory had declined. The reasons were that electronic music had become popular and that new electronic music and musical instruments had appeared, owing to the advance of technology.

These achievements influenced the creativity of many composers studied in the Acoustics Laboratory, and the education of the Department of Musical Creativity and the Environment Course (established in 2002). It set up some lectures about electronic music and computer music.

When I inspect and read the achievements and history of the Acoustics Laboratory’s education and studies about electronic music, I can understand the stance of finding new art, facing new technology.

要旨

森本 裕子
音楽外的内容が聴取者の音楽印象に与える影響について
―R・ワーグナーの示導動機を用いた試聴実験―

音楽は物理的に調整された音の組み合わせと連続であるが、それと同時に概念や象徴的意味、演奏または聴取されるコンテクストなどの音以外の要素と深く結びついたものでもある。しかし、 現在では音楽を取り巻く環境の変化により、音楽をコンテクストから切り離して単に音として聴取することが可能になった。CDやインターネットを用いれば、劇場に行かなくてもイタリア語 が分からなくても自宅でオペラを聴くことができる。それにも関わらず、多くの聴衆は曲目解説 やライナーノーツを読み、その作品の音以外の情報を知ろうとする。これらの象徴的な意味、歌 詞やリブレットなどの音楽外的内容は聴き手の音楽印象にどのような影響を与えるのだろうか。 それらを知っているのと知らないのとでは、音楽を聴く上で何が異なるのだろうか。

音楽外的内容の既知と未知とで音楽印象に違いが出るのか調べるため、本研究ではリヒャル ト・ワーグナーの示導動機を用いて試聴実験を行った。まず評定者を何も情報を与えない、音楽 のみ知っている、音楽外的内容だけ知っている、音楽を聴いたことがあり且つ音楽外的内容も知 っているという4条件に分けた。音楽を与えるグループには実験と同じ示導動機を編集・収録し た CD を渡し、予め聴いておくよう指示した。情報を与えるグループには、各示導動機の名称や意味、登場する場面などを説明したテキストを渡し、読むよう指示した。実験では3作品から選んだ 11 個の示導動機を評定者に聴かせ、15組の形容詞対を7段階評価させて条件間の差異を検討した。

その結果、4条件間で目立った差は見られなかった。統計分析をしたところ、次のことが分かった。第一に、示導動機の音楽外的内容は音楽印象にほとんど影響を与えない。第二に、音楽の 印象は調の長短とテンポの遅い速いによって判断される傾向にある。そして第三に、15 組の形 容詞対は評定時の用いられ方によって3つに分類される。つまり、言葉の細かな違いは印象の判断には反映されないということが明らかになった。

実験では音楽印象は音によって形成される面が大きく、音楽外的内容からあまり影響を受けないという結果が出た。この結果と考察を通して次のような推測に行き着いた。音楽外的内容が聴 取に何らかの影響を及ぼすとしたら、それは音楽の認識においてではないだろうか。音楽作品の 一要素である動機に言語による明瞭な輪郭を与えることで、その動機と他の音楽要素との関係が 明らかになり、作品全体の構成や有機性が見えてくるのではないかと考えられる。しかし、音楽 を聴いた時の内面のプロセスは複雑なものであり、「音は印象に働き、音楽外的内容は認識に働く」とは単純に言い切れない。おそらく両者には相互作用があると考えられ、それは短時間の実 験で分かるようなものではない。このことについては今後検討していきたい。


MORIMOTO Yuko
The Effect of Extramusical Information on the Listener’s Impression: an Experimental Study Based on the
Wagner’s Leitmotivs

The purpose of this study is the examination of the effect of extramusical information on the listener’s impression of musical works. Music may not be only combinations and sequences of correctly tuned sounds, but also may be deeply connected with the extramusical information such as significations and situations that music are performed and listened. Many listeners may would like to know about these extramusical information when they listen to musical works, although it may be possible to listen and enjoy only to the sound of music from various recording media without exrtramusical information. Then, what are the influences of the extramusical information on the listening and the listener’s impression of music?

In this study, an experiment, using the Wagner’s leitmotivs as musical stimuli, was done. Participants of the experiment were divided into four groups; who knew nothing about the musical stimuli, who had listened to the stimuli, who had known the names and the meanings of the leitmotivs, and who had known both the stimuli and the extramusical information. In the experiment, the participants listened to the 11 leitmotivs which were selected from Der fliegende Holländer, Tristan und Isolde and Das Rheingold, and they were asked to rate on 15 pairs of adjectives on 7-point bipolar adjective scales.

The analysis results indicated that there were no significarit differences between the four groups. Followings may be said from the results; first of all, the extramusical information may not affect the listener’s impression of music. Secondly, tonality and tempo may strongly influence on the impression of music. Lastly, it can be said that the participants could not differentiate the adjectives well when they rated the musical stimuli because 15 pairs of adjectives were divided only to three groups. In other words, the impression did not correspond well with the differences of meanings and nuance of the words.

Therefore, it could be said that the extramusical information may not have strong effect on the listener’s impression. The following idea was led from the study; the extramusical information might influence more on cognition of music than on impression, presuming the information affect somehow musical listening. The verbal information may give us clarifying silhouettes of musical structures and it would become easier for listeners to grasp and understand musical works. This problem is just a conjecture and has to be addressed in the future studies.