山田 哲広
録音物に対する演奏家の意識 —残響感と距離感に関する考察—
無伴奏ヴァイオリンの録音物を聴いた際、聴取者はどのような距離感,残響感を好むのだろうか。本研究では, ヴァイオリンを専門とする者, ヴァイオリン以外の楽器を専門とする者,録音技師の3グループに被験者を分類し,音量と残響量を変数とした調整法による主観評価実験を行った。そしてそのグループ間で評価に違いがあるか否かを分析した。その結果,音量に関しては3つのグループ間,残響量に関しては録音技師のグループと他のグループ間で有意差が見られた。
また、過去に聴いたことのある録音物の音について満足している点、あるいは不満足な点は何か、生演奏の音と録音物の音とでは何が違うと感じるか、自分にとって理想的な録音物とはどのようなものか、についてインタビューすることにより、演奏家の録音物に対する意識の一部を抽出した。
YAMADA Akihiro
Awareness of Recorded Music by Performers of a Musical Instrument —On Reverberation and Distance Impressions—
What are the listener impressions on reverberation and distance on recorded music materials of unaccompanied violin? In this research, three groups of violin players, instrument players other than violin, and recording engineers were asked to participate in a subjective evaluation experiment. The experiment was done using Method of Adjustment on subjective loudness and reverberation amount as two parameters. Collected data were analyzed to show there were significant differences between the three groups on subjective loudness and significant differences between the recording engineers and the other two groups on reverberation amount.
Interview was also done for each subject to ask on the points that he or she is satisfied, points that is not satisfied, differences between live sounds and recorded sounds, and the ideal recording for the player. Through the interview, performer’s awareness on the recorded material were extracted.
余田 有希子
現代作品における邦楽器の用法
明治時代に西洋音楽が導入されて以来、西洋の伝統音楽と、日本の伝統音楽両者をどのように扱っていくかが長年の課題であり、様々な議論が交わされてきた。邦楽界から西洋音楽への歩み寄りをみせたり、洋楽界から伝統音楽へ歩み寄ったりする中で、さまざまな試みがなされ、多くの作品が生み出されてきている。そして洋楽界からのそういった試みによる創作は、1960 年代頃から急速に増え、多くの作曲家が邦楽器を使用した作品の創作に取り組むようになったのである。そして、この時期に誕生した作品に関しては、多くの評論家によって論述されてきた。それらのうち、多くのものが個々の作曲家や作品、または、同時代の動向について論じたものであり、作品や作曲家を超えて時代の流れを追いながら、洋楽界の作曲家がどのように邦楽器と向き合い、どのような作品が生み出されてきたのか、考察していくものは見られなかった。
本論文では、洋楽界という視点に立ちながら、主に、第二次世界大戦後の洋楽界の作曲家がどのように邦楽器と関わり、扱ってきて今に至るのかを、考察することで、今後の新たな邦楽器のための作品制作の一助としたいと考える。
第一章では、洋楽界の作曲家による邦楽器のための試験的な創作活動がなされていたといえる第二次世界大戦以前の取り組みについて、歴史的背景とともに考察を行った。西洋音楽輸入当初から目的とされた「和洋折衷」の音楽に対する取り組みや作品の傾向について論じている。第二章では、洋楽系作曲家が邦楽器への深い理解のもと作曲したといえる、第二次世界大戦以降の取り組みを考察し、その時代における前衛音楽の影響や邦楽界からのアプローチが背景にあることを確認した。そして、邦楽器への理解を深めた洋楽系作曲家が、自己の既得の語法と邦楽器の間で様々な葛藤を繰り返し、邦楽器の扱い方も多彩になっていきながら今に至ることがわかった。第三章では実際に幾つかの作品を取り上げ、その楽譜や作曲者の言葉などから、第二章で述べたことを裏付けていった。ここでは、洋楽系作曲家による新しい邦楽器の用法、さらには邦楽器を扱ったことにより、洋楽器にも新たな用法が生まれていることがわかった。
本論文では、以上の考察により、洋楽系作曲家と邦楽器との関わり、そして作品における使用法の変遷を明らかにした。
YODEN Yukiko
Compositions for Traditional Japanese Musical Instruments in Contemporary Music
This thesis aims to show how Japanese composers trained primarily in Western music have utilized traditional Japanese musical instruments in their works since World War Two.
They have been confronted with various conflicts between traditional Japanese idioms and Western ones, and have made many kinds of attempts to reconcile the differences. Some of them used traditional Japanese instruments by means of Western music idioms. Some did it by means of traditional Japanese music idioms. And others tried to assimilate the Japanese traditional instruments to the idiom of Western music.
In this thesis I examine several contemporary works for traditional Japanese musical instruments and analyze their notation and their composers’ remarks. The result reveals that the struggle of the contemporary composers have helped to create new kinds of playing methods of the instruments and these methods, on the contrary, have encouraged the creation of new techniques for Western musical instruments. These tendencies, I hope, will be helpful in opening new possibilities for future compositions.